さて、『枝野ビジョン』を読んで論評してきたのは、少しでも野党の政権共闘につながればという思いからだった。実際、『枝野ビジョン』には共産党の考え方、政策に近い部分も少なくないので、安保・自衛隊の問題でちゃんとした政策が出せれば、政権共闘も不可能ではないと考えたのだ。

 

 しかし、やはり安保・自衛隊問題がネックで、当面、実現の見通しがなくなった。だから、『枝野ビジョン』を読んでも力が入らないのだが、いちおうどこかで終了しておかないといけないので、最終回として書いている。

 

 『枝野ビジョン』では、産業政策として「少量多品種生産」を打ち出しているところが面白い。従来型の左翼では、「中小企業支援」という括りで出てくるものだが、それだと大企業性悪論の範囲みたいになる。『枝野ビジョン』の「少量多品種生産」は、近代の基本的な生産システムが「規格化×大量生産型社会」にあって、それを前提としている限り、安い労働力を投入できる開発途上国との競争になって、結局は国内産業が衰退するという現実を踏まえている。新自由主義どころか資本主義の本質に切り込んでいるのである。

 

 実際にどう「少量多品種生産」を構築すれば、海外との競争でも生き残り、国内での雇用と消費を増やせるかは今後の政策を期待するしかない。それにしても考え方としてあり得るものだと思ったし、共産党との接点が広がるはずである。

 

 その他、「自然エネルギーシステム」の構築にしても、老後の不安をなくす政策にしても、野党共闘で政権を奪いにいく旗印になりうるものだ。これを読めば立憲民主党のイメージはかなり変わるはずである。総選挙に向けて、どう政策化していくかが待たれているだろう。

 

 それにしても、やはり安保・自衛隊である。天皇制の問題は野党のなかで考え方が大きく異なるが、それでも共産党は現在の綱領に天皇制廃止と書いていないし、基本政策が現行憲法の遵守なので、それを貫ければ違いは埋められる可能性がある。

 

 しかし、自衛隊の問題は、「現行憲法の遵守」を機械的に掲げている限り、いつまで経っても「廃止」という結論しか出てこないし、だからいつまで経っても他の野党との溝は埋まらない。野党の国会共闘が政権共闘にまで発展するためには、やはりこの分野でどう飛躍するのかということだろう。