本日、朝のトップニュースはこれだろう。朝日新聞も産経新聞も、1面の右下という同じ位置で扱っている。論調も同じだというところが興味深い(ちなみに「赤旗」は報じていない)。

 

 昨年1月、ソウル中央地裁が慰安婦の訴えを認め、日本政府に賠償を命じる判決を下し、賠償と訴訟費用の確保のための韓国内日本資産差押えが焦点になっていたが、その同じ中央地裁が、確定判決は有効としつつも、訴訟費用のための資産差押えは「国際法に違反する恐れがある」ということで、認めない決定を下したというものである。「今回の地裁決定で、賠償の履行を目的とした日本政府資産の差し押さえも認められない可能性が高くなった」と朝日は報じている。要するに、賠償を求めた判決の有効性は変えないが、実際に賠償をとることは国際法上の問題があると認めたということになるだろう。

 

 今年の新年、文在寅大統領は、ソウル中央地裁の賠償判決について、「望ましいとは思わない」、「正直困惑した」「(2015年の合意は)日韓両政府の正式な合意だったと認める」と発言した。今回の地裁の決定は、その政権の意向に沿うものだろう。

 

 この決定を前にして、日本政府は「それ見たことか」とあざ笑ってはいけない。日本に賠償を払わせるという韓国側の意図が達成されない可能性が高まったことを好機と捉え、2015年の日韓政府合意を甦らせるために積極的に動くべきだと思う。

 

 2015年の合意は反対だという人も少なくないだろう。実際、あの合意が出た時、韓国側だけでなく日本でこの問題に携わってきた人々の中でも、「被害者不在」とのきびしい批判が寄せられた。

 

 しかし、例えば今年3月24日、日本の関係者の中心人物が共同論文「慰安婦問題の解決に向けて ー私たちはこう考える」を発表した。石坂浩一、内海愛子、内田雅敏、岡本厚、鈴木国夫、田中宏、矢野秀喜、和田春樹というそうそうたる顔ぶれだ。

 

 そこでは、「日韓両国政府に対し、まず『2015年合意』を再確認し、その合意の精神をさらに高めるための努力を要請します」としている。合意をベースにすべきことを、日韓双方に求めているのである。

 

 その上で、日本側には菅総理が合意の文面を手紙にして、慰安婦に届けることを提案している。韓国側には、日本が出した10億ドルが慰安婦に渡されたことを報告し、残ったおカネの使い道を提案している。

 

 提案内容は以上だ。植民地支配の清算という根本問題は時間のかかることだけれど、とりあえずここで和解することはできるのではないか。