3月末をもって、産経新聞デジタルiRONNAが終了した。最初に寄稿依頼があった時、ただでさえ左翼の資格を疑われているのに、こんな場所に寄稿したら、「あいつはやはり右翼に変質した」と断定されるのではないかと、かなり躊躇したのを思いだす。そうはならなかったのは(と思っているのは自分だけだったりして)、「異論」を掲載するというコンセプトが堅持されたからだ。なかなか左翼メディアにはまねできないところである。依頼されるテーマも刺激的で、そういう問題を左翼的に書くとしたらどんな可能性があるだろうかと悩み、勉強させてもらったことを感謝している。近く上梓する予定の『「異論の共存」戦略』の「まえがき」の最後に、ここに寄稿した思い出を書いているので紹介しておく。

 

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 なお、本書の最後には、私が産経新聞デジタル版のオピニオンサイト(iRONNA)に寄稿した二〇近い論考のなかから三つを掲載している(タイトル等の一部は修正)。百田尚樹氏の『日本国紀』批判、現代的なコミュニズム待望論、北朝鮮の核・ミサイル問題への考察である(北朝鮮問題は産経新聞本紙に転載された要約版も掲載)。一応は左翼であることを隠していない私に寄稿の依頼が来るなど考えもしなかったが、「デジタル版は異論を掲載するリベラルな立場だ」と説得され、サイトの名称自体も「いろんな」と読めて「異論」を前提としたものであるので、寄稿させてもらうことにした。産経新聞系列というだけで毛嫌いする人もいるが、百田氏への批判やコミュニズム待望論さえ載せるようになっているのである。実際、何か検閲されることもなく、自由に書かせてもらってきた。

 

 残念なことに、iRONNAは今年三月で閉鎖されてしまった。コロナ禍での広告収入の激減を背景にした選択と集中の政策下では、右派からの「異論の共存」戦略は割に合わないという判断なのだろうか。終刊にあたって編集部から届いたメールには、「イデオロギーに偏らず、あらゆる言論を排除しないiRONNAに誇りを持って編集してきました」とあった。右派からの試みが途絶えるならば、それに倍する「誇り」をもって、左派からの挑戦を続け成果を生み出したい。