先日、「この一週間で一番悲しかったニュース」のことを書いた。韓国で北朝鮮を批判する言動が罰則付きで禁止されたニュースであった。

 

 では、「この一か月で一番悲しかったニュース」は何かと問われれば、ちゅうちょせずにこの記事にするだろう。12月1日の「赤旗」国際面のトップニュースである。こんな見出しが建っていた。

 

ベトナム共産党 来年初頭に党大会

2045年までに「社会主義を志向する先進国」目標

 

 せっかく今年1月の党大会で綱領を改正し、中国を「社会主義をめざす国」と規定していたのを削除したばかりだ。1年も経たないのに、こんな記事が堂々と掲載されるなんて、あきれる他ない。もしかして翌日の「赤旗」に訂正が出ているのではと、むなしい期待で目を皿のようにしたことが思い出される。 

 

 日本共産党は、ベトナムは中国ほどは人権が抑圧されていないとでも思っているのだろうか。特派員も送っているから、まさかとは思うけれど、ベトナムと頻繁に行き来して交流のある私の知人は、独裁という点では中国もベトナムも少しも変わらないと強調する。いずれにせよ、反対政党の設立が許されていないというだけで、社会主義とは縁もゆかりもないと見るのでなければ、党大会の評価は何だったのかということになる。

 

 それとも、ベトナムには中国のような覇権主義の問題はないと、少しでも考えているのだろうか。たしかに中国ほどの軍事力を築く力はないから、中国と同じようなことはできないだろう。しかし、かつてカンボジアからなかなか軍隊を撤退せずに内政に介入し続けたように、ベトナムはやはりインドネシアの地域ではまごうかたなき覇権国家である。安倍政権が集団的自衛権を容認する新安保法制をつくったとき、ベトナムがそれを支持したのは、そういう覇権的な思想が生み出したものだ。

 

 いや、この見出しは、ベトナム共産党がそう言っていることを客観的に抽出したものだと、言い訳するのだろうか。しかし、見出しをつけるのは「赤旗」の側であり、評価するような見出しを付けたとすると、それはベトナムの言い分ではなく、「赤旗」自身の言い分になる。

 

 年始の党大会以降、「赤旗」にはようやく中国批判の記事も載るようになってきた。しかし、いくら中国批判の言葉を強く打ち出しても、こんな見出しの記事が出てくるようでは、中国を社会主義を評価してきた20年のうみを出し切ることはできないだろう。半世紀以上前の北朝鮮への帰国運動が華やかなりし頃、「赤旗」が見出しで北朝鮮のことを「地上の楽園」と書いたのことがあったそうだ。後年それが問題になるようになって、「いや、あれは北朝鮮がそう言っているのを見出しにとっただけで、本文で「赤旗」自身がそう評価している文章はない」と責任から逃れようとしたが、到底通用するものではなかった。

 

 「基本的人権が制限された社会主義という概念などそもそも存在しない」。一貫してこの立場に立つことが不可欠である。