最初に逐条的に書くと決めたので、部分部分は「これを書けばいい」と分かっていた。調査もした。

 

 だけど、そうやって書いていくだけでは、解説書というか教科書というか、そんなものになってしまう。その種のものも求められているだろうけれど、それが本当に書けるのは、まさに研究者、その道の専門家だけである。

 

 私にできるのは、せいぜい、膨大な研究を整理し、読者に分かりやすく提示することだ。それも意味のあることなので書こうとしたのだが、どうも物足りない。

 

 そこを「こう書けばいいんだ」と思わせたのが、行政協定を改定する交渉にあたって日本政府が作成した「行政協定改定問題点」の文書である。逐条的に改定を要求する項目とその根拠をまとめたものだ。

 

 これも民主党政権下で公開されたもので、いろんな研究者の方が必要に応じて言及している。その全部を行政協定そのものと改定された地位協定を照らし合わせ、いろいろ比較してみた。

 

 一方で、行政協定のままでいい、改定を求めないとした条項もある。他方で、「ここは全文削除を求める」とか、「アメリカの権利は認めない」とか、強気に出ている条項もある。

 

 その違いは何によって生まれるのか。そこを考えていて、この文書を作成した官僚たちの姿が、ドラマのように頭の中に映し出されてきた。

 

 「ここは岸信介政権の安保条約改定交渉の根幹にかかわるから、われわれ官僚が手を付けてはいけないところだ」という節操というか忖度というかがあって、何も要求しなかったのだろうと思える部分がある。しかし、「そうはいっても主権国家なのだから、ここはがんばらなければならない」と官僚なりに筋を貫こうとしたと思える部分がある。

 

 そうやってがんばってみて、「やっぱりアメリカに抵抗してもムダだよな」とあきらめに似た気分に陥った人もいるだろう。だけど、「少なくとも文章の上ではアメリカに抵抗できる最低限のラインを確保した条項もつくった」と感じていた人もいたのではないか。

 

 そんなドラマが見えてきたので、それを折り込みながら書いていけば、通常の解説書のように単調ではなくなるかもしれない。そう思えたら一気に書き進むことができた。考えていた期間は何年もあるが、実際に執筆したのは、沖縄タイムスで「行政協定改定問題点」の全文を見た今年1月だったから、9か月ほどで書き終わったことになる。

 

 今は、次に書く本のテーマを検討中。なかなか暇にならないね。