はい、本日、第16条に関する解説を書き始めました。こういう条項です。

 

 「日本国において、日本国の法令を尊重し、及びこの協定の精神に反する活動、特に政治的活動を慎むことは、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の業務である。」

 

 美しい文面ですね。米軍が日本国の法令を尊重してくれるんだって書いているわけですから。涙が出そうです。

 

 地位協定は米軍に与える特権免除を書いているわけですが、もし書いていない問題に直面した場合、この精神からすれば、当然日本国法令は尊重されることになるでしょう。実際、地位協定を審議した1960年の国会で、林修三さんという法制局長官は、「(協定に)書いていないものについては、日本の法令が大体適用される」と明言していたのです。

 

 ところが、です。現在、日本政府の見解となっているのは、外務省のホームページに載っているこんな見解なんです。

 

 「一般に、受入国の同意を得て当該受入国内にある外国軍隊及びその構成員等は、個別の取決めがない限り、軍隊の性質に鑑み、その滞在目的の範囲内で行う公務について、受入国の法令の執行や裁判権等から免除されると考えられています。すなわち、当該外国軍隊及びその構成員等の公務執行中の行為には、派遣国と受入国の間で個別の取決めがない限り、受入国の法令は適用されません。以上は、日本に駐留する米軍についても同様です。」

 

 60年には「日本の法令が大体適用される」が原則だったのです。ところが現在は、「受入国の法令は適用されません」が原則になっている。米兵の「公務執行中の行為には」と限定をつけているように見えますが、地位協定の対象者の中心は公務中の米兵です。だって、米兵がいない限り、軍属も家族も日本に来ないわけで、軍属や家族は日本の法令を尊重するんですと約束しても、何の意味もありません。

 

 この質的な変化を生みだしたのは何かというのが、現在執筆中の問題です。核心部分は本にしますのでしばらく待ってほしいのですが、その変化を促したのは80年代に広がった米軍機の低空飛行訓練だと思います。

 

 米軍の訓練は、地位協定2条で基地や演習場を提供することになっているので、当然そこでやられるのが原則です。ところが80年代、演習場でないところで、というか日本全土の上空で低空飛行訓練が開始されました。さすがに2条を根拠にできないので、当初、5条を根拠にしようとしたのです。「(米軍は基地)に出入し、これらのものの間を移動し、及びこれらのものと日本国の港又は飛行場との間を移動することができる」(2項)というヤツですね。

 

 だけど、それも無理があった。だって、墜落してパイロットが死亡するような激しい訓練をしているわけですし、米軍が公開している訓練ルートを見ても、基地と基地の間を移動しているなんて、とても言えない。

 

 そこで、公務中の軍隊なら、日本の法令を無視して何をやってもいいという答弁に行き着いたわけです。そこの背景にあるものを、今回の本では解明したいと考えています。