共産主義が崩壊し、一人勝ちした資本主義の現状をどう評価すべきか。このままの日本が続けば幸せになれると、どれほどの人が感じているのだろう。

 

 現在の日本は、少し古い言葉を使えば、「負け組」には将来への不安が募るだけの世の中である。正規雇用につけず、永遠に「負け組」から抜け出せないと言われるロスジェネ世代(現在、40歳前後)を再雇用する試みが話題になっているが、その世代が世に出た2000年頃、25パーセント程度だった非正規雇用は、いまや4割程度にも上昇している。ロスジェネ問題はなくなったのではなく、より普遍的な広がりを持つようになったのである。正規雇用者になれたところで、やれブラック企業だの過労死だの、押しつぶされるような暮らしを余儀なくされているものが少なくない。

 

 その一方で、企業の内部留保は400兆円を超え、この10年で3倍以上になっている。一昨年はじめ、国際NGO「オックスファム」が公表した報告書も話題をさらった。世界で1年間に生み出された富(保有資産の増加分)のうち82%を、上位1%の富裕層が独占していること、下から半分(37億人)の貧困層は財産が増えなかったとするものだった。昨年はじめの同NGOの報告書では、世界で最も裕福な26人が、世界人口のうち所得の低い半数に当たる38億人の総資産と同額の富を握っているとのことであった。「負け組」の犠牲で「勝ち組」が肥え太っていく。「勝ち組」には笑いの止まらない世界が広がっているわけだ。

 

 それなのに、肥え太っていく企業や富裕層に対して厳しく向き合い、自分の利益だけでなく社会全体のことを考えて行動せよと迫る仕組みがない。それが世界規模で顕著にあらわれているのが気候変動の問題だ。科学の見地からは二酸化炭素の排出量を激減させなければ地球の未来さえ危ないことが明確になっているのに、資本主義の中核に存在する巨大企業は、いまだに石炭火力発電に頼り(日本は増加させつつある)、科学よりも目の前の自己の利益を優先させ、世界を次第に破滅的危機へと導いているのである。

 

 「我が亡き後に洪水よ来たれ」──。マルクスはフランス王ルイ15世の愛人であったポンパドゥール侯爵夫人のものとされるこの言葉を『資本論』で引用し、資本の醜い本性を暴いた。ルイ15世の治世から250年経っても、資本の本性は変わらないままなのだ。

 

 その資本の本性が、歴史上一度だけ挑戦を受け、醜さを覆い隠したことがある。それがロシア革命であり、共産主義「体制」の出現であった。

 

 例えば、現代に生きる我々が普通に享受しているものとして、8時間労働制がある(日本では制度が脅かされているが)。これは、マルクスらが1866年に創設した国際労働者協会が呼びかけた課題であり、20年後の86年5月1日、アメリカの労働組合が全国的なゼネストを行って要求し、その後、5月1日がメーデーとされることになった。しかし、どの国の資本も、こうして労働者がゼネストをして要求しても、自己の利益を優先させて応じることはなかったのだ。

 

 そこに変化が生まれたのが、今からちょうど100年前、第一次大戦後のベルサイユ平和会議において、1919年に国際労働機関(ILO)が創設されたことだ。ILOが創設後最初につくったのが、1日の労働時間を8時間、週の労働時間を48時間に制限する条約であり、その後、この制度が世界に広がっていくことになる。ILOはまた、こうした条約の採択にあたり、ILOの総会では一国が4票を投じるのであるが、そのうちの1票は労働者代表に与えられることになっている(2票は政府、残り1票は企業)。最近、国際条約の策定にあたりNGOが役割を果たす事例が増えているが、ILOはその先駆けであり、今でももっとも先進的な仕組みとなっている。

 

 なぜそんな革命的な変化が生まれたのかといえば、ロシア革命があったからなのである。その秘密をILO関係者と日本の高級官僚に語っていただこう。(続)