久しぶりに日韓の首相による会談が行われたが、おおかたの予想通り、関係を打開する道を見いだすことはできなかった。両国政府とも問題の本質をちゃんとつかんでいない状態では、そういう道は今後も見えてこないだろう。

 

 会談で安倍首相は、「国交正常化の基礎となった国際条約を一方的に破っている」と韓国側を批判したという。それに李首相は、「日韓基本条約や請求権協定をこれまで尊重し守ってきており、今後もそうする」と応じたそうだ。安倍首相は、会談の最後にも、「両国関係を本格的に改善するためには、国際法に違反している状況を改善しなければならない」と強く指摘したらしい。

 

 韓国政府は請求権協定を守っているのか。それが問題である。

 

 昨年10月末の大法院判決までは守ってきた。請求権協定で徴用工問題が勘案されていると認め、徴用工の請求に対して韓国政府が応じるべきだと考え、補償に応じてきたわけだから。

 

 大法院だって、そのことは認めている。協定そのものと韓国政府の措置によって、不払い賃金など請求権協定が想定したものは決着しているという見地である。つまり、請求権協定で解決済みという日本政府の考え方は、大法院も認めているに等しい。

 

 ところが大法院は、請求権協定とは違う分野で、徴用工には請求権があると認定したのである。それが違法な植民地支配と結びついた反人道的労働に対する賠償は、請求権協定ではカバーされておらず、そこにおける請求権は残っているということだ。

 

 だから、両国が向き合って議論すべきは、日本の植民地支配が違法だったかどうかという問題である。その決着抜きに、この問題からは抜け出せない。

 

 よく知られているように、65年の日韓条約の際、この問題はあいまいにされた。日本は合法だという立場を貫き、韓国は違法だという立場を貫いた。そこをあいまいに決着させるため、妥協的な解決方法を用いた。そのツケが、半世紀以上たって両国を苦しめているのである。

 

 しかし、両国が妥協したことが現在の問題を生み出しているわけだから、そこを両国は反省し、植民地支配は違法だったか合法だったかという条約のあいまいな解釈を、一致させるための外交交渉をする必要がある。違法だったとなれば賠償という話になり、合法だったということになれば問題は終わる。そこに踏み込まないで議論していても、堂々まわりを繰り返すだけなのである。