【157】

 
2011(H23)年の話です
 
 

 
「今日から お母さんの入所が可能です」

母だけ先に
入所予定だった(Y)施設(ケアハウス)から
連絡をもらった日

実家に向かい
掛け布団、毛布、シーツ、着替え、
紙オムツや処置物品、身の回りの物…

車に積めるだけ積んで(Y)施設に運び
その日は
実家と(Y)施設
何往復かして母の入所準備をした
自宅⇔実家 往復350km
実家⇔(Y)施設 往復40kmほど


「部屋の中は在宅と同じなので
連絡さえしてもらえれば
ご家族が泊まるのは いつでも良いですよ」


(Y)施設からは
そう言っていただけたので

父がまだ入所する前の
広い二人部屋

母が慣れるまで泊まるつもりで 
寝具は3人分運んだ
(母と これから入所する父と 私の分)


広くて
明るくて
すっきりとした部屋

窓から見える景色は
実家とは全く違ったけれど

少しずつ
実家から生活用品を運べば
少しは
長く暮らした実家の部屋を
感じてもらえるかもしれない…

そんな思いで いた



ショートステイの施設から
(Y)施設の部屋に移り
搬入してもらったBedに横になった母は


「ここは どこだい?
綺麗な とこだね」


興奮することもなく
ご機嫌な様子に
ほっとして
申し送りを済ませたあと
入院中の父の様子を見に行くことにした



全粥
軟菜刻み
大盛り!
 
食事中だった父は
大きなエプロンを 掛けてもらっていたけれど
一人で 箸を使い
こぼさずに食べることができていた

バナナの皮も 一人で むける!
 
食欲も あり
顔つきも はっきりしてきて
会話も できるようになってきていて

嬉しかったなぁ




その日も
父は
ひとりごとのように

  
「お湯(温泉)
行きてぇなぁ

◯◯さんと(←夫のこと)
お△△さんと(←私のこと)
ばぁさまと(←母のこと)
俺でさ

早く行きてぇなぁ

海の見える温泉に行きてぇなぁ」


そう言っていた





前の日には 

「外が見たい」

と言う父を
車椅子で
入院している階の端っこの
ガラス張りのコーナーの所まで
連れて行ってあげると


「桜は まだだね」…


まだ
色のない桜の木を
じっと見つめるように眺めていた父に


「退院して
新しい施設に入ったら
お花見の行事があるんですって」


あの時
私は
そんな風に答えたんだっけな…







会えるのも
話せるのも...

喧嘩が できることさえも


生きていればこそ…




会えること が
明日も続くと思っている


話せること が
日常の一部だと思っている


喧嘩ができること さえも
相手が
目の前にいるからこそ できることだと
後になって気づく


生きていて
健康で
目の前にいてくれるという
その当たり前は…

物質的な欲や
一時的な快楽などを超えた
そんな根源(こんげん)的な幸せは…


(うしな)って
初めて気づく



けれどね

生きているうちは
なかなか気づかず

わからないものなんだよね…






お湯 行きてぇなぁ



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