じっ と手を見る...



いつの間にか

ひとつの あかぎれも
ささくれもない


すべっ として

柔らかくて
あったかい手になっていた




田舎は 
ひとさまの ものになって...


草むしりも
草刈りも

薪割りもしなくてよくなった


鎌も
のこぎりも

ビーバーも
チェーンソーも
使わなくてよくなったんだ


車の運転でさえ
しなくて よくなったんだから



寝たきりだった夫が逝って

おむつを替えることも
汚れものの洗濯をすることも なくなって...



この手は
全く 働かない手になった




ぱっくり割れて…

ざらざらで
がさがさで
まっかっか



あの頃

そんな私の手を
見るたびに



ごめんね

あなたの手が
こんなに
荒れちゃったのは

ぼくのせい



夫は
いつも
そう言って
さすってくれたっけ




夫よ

安心していいよ


私の手は

ひとつのあかぎれも
ささくれもない 

すべっ として
柔らかくて
あったかい手になったんだ




だけれどね…


ちっとも嬉しくないんだよ


もう
この手には

なにひとつ
あの頃のことが 残っていない…



そう思ったら
悲しくて



ただただ
じっ と手を見てる...