おはようございます。
気温は17.1℃、天気は晴れです。
今日は、我が街の秋祭りの前夜祭です。で今日は、それを思い出した小説です。
遠くで笛の音が聞こえた。「わっしょい、わっしょい」と子供たちが叫ぶ声も聞こえた。少しづつ近づいてきているようだ。ものすごく懐かしさを感じた。そう言えば、私も昔は、あの声の中にいたことを思い出した。もう半世紀も前のことだ。
街外れにある神社の秋祭り。この街の家は、ほとんどがこの神社の氏子だ。だから祭りは盛大に行われる。各町内では、長老たちが若い衆と子供たちを取り仕切る。子供たちは、前夜と当日の午前中の神輿を担ぎ、若い衆は午後から行われる馬追で勇気を試される。その他にも、武者行列や獅子舞などがある。小さな街にしては、結構な催しだ。
子供たちは、夜の神輿を担ぐために、学校から早く帰宅する。各町内の名前が書かれた法被を親に着せてもらい、鉢巻きをしたら、町内の集合場所に集まる。テントの中では長老たちが、もうお酒を飲んでいて、子供たちはその前に置かれた大量のスルメを食べたくてしょうがない。やがて付き添いの若い衆とともに、街の中を練り歩く。
「わっしょい、わっしょい」
時には、街灯のない暗い路地にも行くので、若い衆の手助けは必要だ。一通り街をめぐってきたら、元の集合場所で、明日の集合時間を確認する。長老たちは飲んだくれて帰ってしまったらしい。スルメはまだたくさんあるので、若い衆は子供たちにも分けてくれる。一口食べると、また食べたくなる。不思議な食べ物だ。
次の日は、学校は休んでいいことになっている。昨日と同じ服装をして、午前中に神輿を担いだら、もう子供たちの出番はない。町内の食堂で、ちゃんぽんをごちそうになり、幾ばくかのお菓子を貰って解散する。その頃、街の通りでは、武者行列が通り、広場では獅子舞の獅子が今年生まれた赤ちゃんの頭を噛む。こうすれば子供は無病で育つと言われている。
家に帰った子供たちは、すぐ街外れの神社へ行く。午後から神社で獅子舞や馬追がある。
でもそんなものが目当てでない。神社の前に並んだ屋台が目的だ。毎年何を買おうか悩む。
でも、そんなにお金を持っていないので、いつもスルメ焼きだ。昨夜食べたスルメの味を思い出す。
すべてが終わると屋台も片づけを始める。少しずつ減っていく屋台を見ると、何となく悲しい気持ちになる。また来年と思いながら帰路に就く。
笛や掛け声が、だんだん小さくなってきた。遠くに行っているようだ。そう言えば、昔は子供たちの数も多く、声も大きかった気がした。祭りも少しずつ変化しているようだ。二日目の子供たちの神輿は学校があるのでなくなり、威勢のいい馬追も動物愛護とやらで無くなった。私は昔を思い出し、少し寂しい気がした。
今日の夜、そんな声が聞こえるかな。