児相の長時間勤務訴訟:千葉県と元職員が和解ー和解内容について
千葉県の児童相談所の元職員が、過酷な環境での勤務を余儀なくされたとして、県に未払い賃金や慰謝料などの支払いを求めた訴訟は、3月23日、東京高裁において和解が成立しました。記者会見の模様は各紙で報道されており、3/30にも追加で詳しい記事が掲載されています。
児童相談所の「労働環境改善」訴えた裁判が約4年を経て和解 千葉県が全職員の「休憩実態把握」などを約束
自治体の訴訟は議決事項であり、本件訴訟の控訴および和解は健康福祉常任委員会に付託されました。
本記事では、控訴の妥当性と和解内容について書いていきます。
【控訴の妥当性】
私は、昨年の一審敗訴後に県が行った控訴の議案に反対しました。
そもそも県の控訴は不適切であったと考えています。
結果を振り返ると、相手方への支払額は、一審50万円、二審の和解でも50万円と同額でした。一方で費用は、
・第一審に要した費用(主に弁護士費用):1,771,020円
・第二審に要した費用(主に弁護士費用):2,178,790円
となっており、控訴審で新たに提出された証拠はありませんでした。
また、和解提案前の10月9日に東京高等裁判所で行われた控訴審の審理を傍聴しました。
原告側は本人および弁護人による口頭意見陳述を行った一方で、県側からの意見陳述はなく、控訴状以上の証拠提出もありませんでした。
県が本気で控訴に臨む準備をしていたのか、あるいは控訴に足る証拠をそもそも持っていなかったのではないかと疑問を抱く対応でした。
以上の点から、控訴の妥当性および金額面の両面において、県の控訴は極めて疑問であり、その無意味さを改めて痛感しました。
【主な和解内容】
次に、委員会において、原告側から示された項目について県が確実に実行できるかを確認しました。主な和解内容は以下の通りです。
(1)県は、相手方に対し、本件に係る解決金として50 万円の支払義務があることを認める。
(2)県は、児童相談所職員が専門職としての役割を全うし、保護された児童の権利と尊厳を守るため、職員の労働環境の改善に努める。
(3)県は、一時保護施設運営条例第18 条に基づき、一時保護ガイド ライン「Ⅱ一時保護の目的と性格」の「4 一時保護の環境及び体制 整備等」に挙げられた研修を、一時保護施設の職員に実施する。
(4)県は、前項に掲げた一時保護ガイドラインの当該箇所の趣旨を 踏まえ、一時保護施設運営条例第19 条及び第20 条に基づき、適切な職員配置の実現に努める。
(5)県は、県が管轄する児童相談所の全職員について休憩時間の実態の把握に努め、児童相談所職員の休憩時間が業務から完全に解放された状態として確保されるよう、勤務体制の見直し、代替人員の配置、 休憩場所の整備等、必要な措置を講じることに努める。
(6)県は、前項の休憩時間の実態の把握の結果、未払賃金の存在が判明した場合には、対象職員に対し、速やかに未払賃金を支払う。
⑵は、改善に向けた大きな決意を示すものですので
⑶~⑹について委員会での答弁も踏まえ解説します。
⑶ 研修について
Q:研修で一時保護ガイドラインⅡおよび「4」の項目を取り扱っているか。
A:取り扱っている。
←研修内容が改善された点は評価できますが、職員一人ひとりが自分事として理解できる内容へ、さらなる工夫が必要だと考えます。
⑷ 職員の「適正な配置」について
Q:適正な配置とは?
A :県では令和6年度の職員定数条例の改正により、令和9年度までに児童 相談所の職員を100名程度増員するということを目指しているところです。 令和7年4月1日時点で、令和6年4月1日時点と比較して74名増員 しているところであり、引き続き人材確保と適正な配置に努めてまいります。
←「適正」の具体的な定義について明確な説明はありませんでした。
条例上の定員は満たしているものの、現場では人員不足が生じており、休憩の確保が十分にできないケースも発生しています。
この「適正」の認識が原告と県で一致しているかが懸念されるため、原告の訴えを十分に踏まえるよう指摘しました。
実態に即した必要人員の明確化が求められます。
⑸ 休憩時間について
◆「業務から完全に解放された状態」とは
訴訟において、原告側が1審から変わらず訴えてきたのが、休憩時間に勤務が発生しており休憩時間ではないことでした。(これを根拠に未払い賃金の請求に繋がります。) しかし県は、電話や対応する事案の発生などはまれであったことから、頻度が少ない事を根拠として休憩時間となると訴えていました。この考えが変わっていなければ、改善には繋がらないことから以下の点を確認しました。
Q :「完全に解放された状態」の定義の県の認識は。
A:業務から完全に解放された状態とは、労働を一切行わない状態であり、例えば、電話や来客などの待機も行わない状態になります。現在は、実際に夜間の緊急の一時保護の対応等で、休憩を完全に取れない職員がいることは承知しており、職員の増員に取り組むほか、休憩場所の確保などを検討してまいります。
→控訴時の主張とは異なり、「労働を一切行わない状態」である必要性を認めたと受け止められる答弁内容である点は評価できます。
一方で、現在も休憩を完全に取得できていない職員がいる現状は重大な課題であり、重点的な対応が必要です。
◆規程の見直しについて
Q「児童福祉施設等に勤務する職員の勤務時間等に関する規程」の第4条第3項の規定の変更を検討できるか。
A 関係課と協議をしながら検討してまいります。
←「勤務時間等に関する規程第4条3項」には
「所属長は、職員の勤務が深夜(午後十時から翌日の午前五時までの間をいう。以下この項において同じ。)に及ぶときは、当該深夜の時間を休憩時間とし、当該職員が仮眠のために利用できるように適当な配慮を払わなければならない。ただし、所属長があらかじめ勤務を命じた場合にあつては、この限りでない。」 と定められています。
この規定では、深夜(1-5時)は休憩時間と定めていますが、実際は勤務が発生する場合があり、規定通りの運用でも不適切な勤務状況になってしまいます。
夜間を完全な勤務時間とし日中と同じ休憩時間を定めたり、交代勤務にするなど適切な休憩時間となる規定に変更する必要があります。 適切に既定の変更が行われるか続けて注視していきます。
◆休憩時間の実態把握について
→控訴議案の時に確認した内容ですが、現在は記録制度が導入され、未取得の場合は割増賃金として支払う体制を取るようになったとのこと。
ただし、単に記録するだけでは実態の把握とは言えませんし、休憩の定義の理解や環境整備の状況によって記録の信頼性が左右されるため、現場実態の詳細で継続的な確認と改善が必要です。
⑹ 未払賃金の支払い
未払賃金が判明した場合、県は速やかに支払うことを示しました。
【最後に】
今回示された和解内容のうち、解決金を除く5項目は、原告個人の利益ではなく、現場職員と保護された子どもたちのための環境改善を求めるものです。
たった1人で県という大きな組織に問題を提起することは、本当に勇気のいることだと思います。
原告の方の強い思いと行動に、改めて深い敬意を表します。
本件を契機に、県が危機感を持ち改善に取り組み始めていることも見えてきました。
1人の行動がもたらす影響の大きさを改めて実感しています。
一方で、課題が解決されたわけではありません。
県は大きな課題を抱えています。
和解内容を承認した1人として、今後の対応を引き続き注視していきます。