茶多令夫人の恋人 | 松ボックリのブログ

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 ⓷脱線して、やっと振り出しに戻って来た。あ〜、疲れた。

祖母の夢から離れる決心をする為に宮崎駅前の洋裁店を見に行った。その帰りに出会った中学校同窓の女友達に誘われて韓国岳に登った。そこで広島市内の私立大学を卒業して三年目の茶多四朗に出遭ったのである。父親は男爵、母親は伯爵の旧家であった。卒業大学の社会的評価が微妙な見合い結婚のバランスを保っていた。

 祖父から見合いを薦められて、アオイは宮崎で暮らすのはこれで最後になるかも知れないと思った。父母を、祖母を、恋人を失い、祖母に 託された洋装店まで他人に譲られ、アオイは迷っていた。

「もう如何でも善い。流れに身を任せてママに生きよう」と開き直ったら、急に眼の前が開けて、中学生の時に遠足で登った韓国岳と深山霧島を再び眼に焼き付けて置きたい想いに囚われ、女友達の誘いに乗ったのである。 

韓国岳山頂を目指し、サイの河原でバスを降り、ナップサックを肩に標示板を頼りに登山口に立った。学校の先生に連れて来て貰った時と違って、友達と登る時はとても不案内な気持ちになる。

「こんにちは」

「おつかれさま」

と声を掛けて来る人達に挨拶を返し、元気を貰いながら登る。山間の灌木の花や遠くに見える火口湖を携帯電話のカメラに納め、硫黄山が眼下に見えだす頃には韓国岳の七合目、八合目となる。