『ビシュッ』
鋭い音がれいなと茂吉の耳に響いた、何事と思う間もなく茂吉の身体が奇妙な糸のようなモノでがんじがらめにされた。
「何だこれは、畜生がぁ身動きが取れん」
僅かに開いた襖の隙間から放たれた糸、襖が開くとそこに立っていたのはお咲であった。
「師匠・・・・何で此処に・・・・」
れいなの問いに答える事無く茂吉の前に迫るお咲。
「一つだけ聞かせてください、懺悔する気持ちはありますか」
お咲の問いに茂吉は声を荒げる。
「懺悔、何の事だ俺はお天道様に恥じぬ生き方をしておるつもりだ」
茂吉の居直りにれいなの怒りが一気にこみ上げた、きっとこの外道は私が何故命を狙ったのかさえ分かっていないに違いない。
怒りにまかせ叫び出しそうになるがそれより早く、お咲が夜叉のような表情に豹変し茂吉に低い声で宣告する。
「では、死んで詫びていただきます」
その一言と共にお咲の右手が茂吉の首筋を撫でたかと思うと、茂吉の首筋からおびただしい鮮血が溢れ出た。
外道の死は惨たらしいものだった、止まることのない出血に徐々に奪われていく体温、止血をしたくても四肢の自由を奪う弦によって身動きができない。
やがて畳に溢れた血の海の中に突っ伏し茂吉は事切れた。
茂吉が事切れた後、れいなは冷静にお咲の手際を吟味していた。
茂吉の身体の自由を奪ったのは箏の弦であった、炙った蝋を塗り込んで強度を増したもので、並みの力では引きちぎることもできない代物だ。
お咲の右手の親指、人差指、中指にはめられた爪から鮮血が滴り落ちている。
普段箏に使う爪よりも先端が鋭く研ぎ澄まされている、どう見ても人の命を奪うために意匠されたモノにしか見えない
そして確実に頸動脈を掻っ切ったお咲の手際、熟練の仕事人でもこうも見事な仕事はできない。
「師匠、あなたは一体」
恐る恐る問いかけるれいなに対し、お咲は淡々と弦を回収しながら答える。
「まずはこの場を去りましょう、家人に露見して騒ぎになっては面倒です」
自分より余程冷静なお咲の言われるままに屋敷を後にする。
いつの間にか外は雨が降りはじめている、まるで拭っても拭いきれない自分たちの返り血を洗い流そうとしてるようだ。