微生物を化学工業における生産手段とする試みも行われつつあります。最終的には石油化学工業のような「早く、大量に」生産することを目指しているようです。

日経産業新聞 2007年10月2日(火) 11面
「未来プロジェクト動く 微生物で化成品(上) 生産、石化より安く簡単」

(Quote) 骨粗しょう症治療薬や特殊樹脂など、これまでの化学合成による製法では生産コストが高かった高機能・高付加価値の化成品を、微生物を使って安く作る試みが活発だ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が二〇〇六年度から始めた「微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」プロジェクトでは、微生物による化成品生産技術の研究が進む。

 静岡県磐田市のメルシャン生物資源研究所。城道修所長らはシュードノカルディアという微生物を利用して、骨粗しょう症の治療薬に使うカルシトリオールを従来の五分の一以下の低コストで生産する技術を開発した。

 シュードノカルディアは物質に水酸基を付ける酵素を作る遺伝子を持つ。この遺伝子を取り出して大腸菌に組み入れ新しい微生物を作った。カルシトリオールはビタミンDに水酸基が付いた構造。水酸基の位置が薬の効き目を左右する。

 新微生物をビタミンDの水溶液に加えた。ビタミンDの分子中の特定部位だけを狙ってピンポイントに水酸基を付与し、カルシトリオールを二回の反応で合成した。

 化学合成による製法ではビタミンDの様々な部位に水産基が付着するため、カルシトリオールの合成には水酸基の付着、脱落など十七回の反応が必要だった。一キロ当たり約五百万円かかったカルシトリオールの生産コストを約五分の一に下げられる可能性がある。

 石油から多くの工程を経て化学合成する製法に比べ微生物を使えば目的の物質を簡単に作れる。生物の酵素などが特定の反応を起こす仕組みになっているからだ。生産コストを下げられ無駄な副産物も少ない。

 同プロジェクトでは日本の化学工業の三割を微生物による生産に置き換えられると試算する。エネルギー面で日本の安全保障に役立ち、石油の枯渇や温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の削減対策にもなる。

...(中略)...

 ただ微生物による化成品の合成は、合成速度が遅いという欠点もある。単に化成品を作るだけでなく、化学合成並みのスピードで合成を達成するような微生物が求められている。特徴ある微生物の遺伝子同士を組み合わせ、合成速度を改善する研究が進んでいる。(Unquote)

こういう成果が、いつの日か、バイオ燃料やバイオマテリアルの生産に応用されるのではないかと私は考えています。

ちなみに、上記のNEDOプロジェクト、経済産業省の意向が働いていると私は見ます。「新・国家エネルギー戦略」に沿った研究内容ですから。