リンク先に「もったいない学会」という団体があります。ここは、ピークオイルを研究しているスウェーデンに本拠のある組織ASPO(The Association for the Study of Peak Oil & Gas)と交流のある日本の団体です。

昨年11月24日にこの団体が東京で一般に公開したシンポジウムを開催しました。

ちなみに、11月29日のASPO関係者来日講演会には、いつも読んでくださっているSGWさんとforever2xxxさんは参加されたそうです。

さて、11月24日のシンポジウムでは、電力中央研究所の天野さんという方が、エネルギー収支について電力(発電)を例に発表されています。

http://www.mottainaisociety.org/1124eprppt.pdf

天野さんは昨年半ば頃からこの件について積極的に情報発信されている方で、エネルギー収支が高いことを理由に原子力発電推進を主張されています。

上記のPDFファイルの9ページに載っていますが、天野さんの試算では原子力発電がエネルギー収支上有利と出ています。

この資料もご他聞にもれず、エネルギー収支の計算の前提を僅かしか記載していません。

しかし、昨年末ようやく天野さんの計算の前提が載っている論文を見つけました。

「日本原子力学会誌 2006 Vol.48 No.10」(社団法人日本原子力学会が発行)

29~35ページに天野さんの論文が載っています。

で、この投稿ではその詳細には立ち入りません。

私が注目したのは、論文に載っている「原子力発電所が発電するにあたっての、エネルギー input の構成」だったからです。

原発におけるエネルギーinputのうち、55%が発電所の設備建設までの過程に投入されます。ただし、ウラン濃縮を全てガス拡散法による、と仮定した場合です。遠心分離法だけを使う場合は、ウラン濃縮に必要なエネルギー投入量が大幅に減りますので、この55%よりずっと高い割合(90%程度)を「発電所の設備建設までの過程」が占めることになります。

この55%の内訳は以下のようになっています。

設備を構成する素材を製造する過程: 46%
素材を加工し、加工した製品を工事現場に輸送し、工事現場で建設する過程: 9%
計: 55%

となっています。

素材産業がどれだけエネルギー収支に深刻な影響を与えているか、これでよく分かりますね。

セメント、鉄鋼、銅や鉛などの非鉄金属、ガラス...といった素材です。

天野さんの論文によると、素材を製造する過程の(全体に対する)46%のうち、「石炭の投入」が(全体に対して)30%だそうです。

これは、「製鉄業に投入する石炭の持つエネルギー量」が原発での発電に投入される全エネルギーの4分の1以上を占めている可能性大(一部セメント製造に投じた石炭が混じっている?)、ということです。

火力発電所でも水力発電所でも、石油産業の製油所でも、原発同様に巨大な装置産業であることに変わりはありません。

自動車や建機や農機や鉄道車両の製造にも影響していること、間違いありません。それらの機械は素材の塊ですから。

バイオ燃料の増産に当面重要であろうと思われる化学肥料だって、巨大な化学工業設備で生産されているわけです。その生産設備の建設までの過程に投入されたエネルギーに、上記の素材生産に投入されたエネルギーが間接的に影響しているわけです。

ということは、「素材の製造にかかるエネルギーを節約することが実現すれば、社会全体としてエネルギーを生産する産業におけるエネルギー収支を大きく改善できるはずだ」と推論できるということです。

細かく言うと、「製鉄業で省エネできるかどうか」が、社会全体のエネルギー収支を向上させる上で特に重要であることがわかりますね。

社会全体としてエネルギー収支を改善できれば、今は非効率という向きもある風力やバイオ燃料などの再生可能エネルギーも、今よりエネルギー収支が改善される可能性が出てくるはずです。

化石燃料が減退するのと相俟って、素材産業の省エネ化進展が再生可能エネルギー利用の将来における普及の重要な要因となるのではないかと私は考えています。