ガソリン車を走らせるインフラについて述べていたときは、
・ガソリンスタンドの地下に設置されたタンク
・自動車内のガソリンタンク
について述べました。
電気自動車について述べたときは、
・充電スタンドの地下に設置された蓄電池
については述べていません。
まず、この点が気付いていただきたい一点目です。
次に二つ目。
・自動車車内の蓄電池
については、書きました。
そこで、思い出してください。化石燃料系液体燃料の優位性の二番目についてです。
エネルギー密度が高いんでしたよね、液体燃料は。
電池はぜんぜんかなわない、ということでした。
「仮に自動車の車内で電気エネルギーを蓄えたとしても、航続距離は知れている。長い距離を走れるようにしようと思ったら、自動車を徹底的に軽く作らなければならないし、それでもガソリン車には全くかなわない」
ってことです。
おまけに電池は重いです。燃料を満載したタンクよりずっと重いです。
電極は金属でできているのが普通です(炭素電極もありますけど)からね。化石燃料系液体燃料は水より比重の小さい物質なんですよ。金属と電解液でできた電池が不利なのは明白です。
車体が重くなると、自動車はスピードを出せませんね。上述したように長い距離も走れない。
ある程度エネルギーを蓄えられるようにしようとしたら、蓄える装置(電池)が大きくなってしまい、人間が乗るスペースも狭くなります。
もう一つ、上の一点目から派生する話です。
仮に、充電スタンドの地下に電池を設置したとしましょう。そこに発電所から電気が送られてきます。
で、地下に貯蔵したとしましょう。
それを自動車に全部充電したとします。
そうしたら、その充電量は、最初に発電所から電力供給を受けたときのエネルギー量の9割以下です。確実に。
電気エネルギーは貯蔵時に損失してしまうんですね。もったいない話ですが、どうしようもありません。
ちなみに、この損失は、自動車の車体に装着された電池についても、もちろんあてはまります。
自動車を充電すると、電力ロスがその時点ですでに発生しているわけです。また、長い間駐車場に放置しておいたら、時間が経つ間に放電してしまい、ここでも電力ロスが発生するわけです。
ガソリンを給油する場合は、こんな心配をする必要はありませんね。ガソリンは給油中に蒸発しますが、電力ロスに比べれば無視できる程度、ほんの僅かです。
もっとも、街中の充電スタンドについては、蓄電設備を設置しない、という手があるのかもしれません。
家庭のコンセントと同じ方式です。みなさんのご家庭に、家電製品に電力供給するために一旦電気エネルギーを蓄えておく蓄電池がありますか? 多分ありませんよね。京セラの「サムライ」でも備えつけてれば別なのかもしれませんけどね。
こういう場合、本当のところどうなのか、私には今のところわかりません。
発電所から送られてきた電力を蓄電せずにすぐ自動車に供給する場合を考えてみると、その場合の問題の可能性は、「電圧・電流の変化がどのくらい大きいのか?」というところに集約されるでしょうね。
自動車が常に充電スタンドの設備につなぎっぱなしなわけはありません。
代わる代わる充電スタンドに自動車が入ってきますが、「つないでは、はずし、またつないでは、またはずし」と、断続的に自動車に接続・充電することになりますね。
そのたびごとに電流・電圧が変わるはずです。
一日の時間帯や季節によって電流・電圧が変わるはずです。
もちろん、電力会社の家庭向け電力供給だって、家庭電化製品が作動したりしなかったりで、やはり電圧・電流に影響を受けているはずです。が、電力会社はそういう変動を考慮して発電しています。需要の変動に巧妙に合わせて供給(発電)しているのです。
ただし、夜間だけは供給過剰になります。火力発電所の火を完全に消してしまうと機械が冷えてしまい、再稼動するのに時間とエネルギーを要するので、夜間に止めないようにある程度の出力で稼動させています。そうすると、電気が余ります。それは放電しているわけです。捨てているんですよ。
だから夜間電力は安いわけです。
ちなみに、需要の変動に合わせて発電するため、電力会社としては、原発だけで電力供給するのは、おそらく非常に難しいはずです。発電量を自在に制御できる水力と火力を維持する必要が今のところあります。
ですから、原発だけを想定した前回の想定は、この点では非現実的です。
風力や太陽光だけで発電する社会も、同様に、現時点では非現実的な想定です。
さて、電気自動車に充電する充電スタンドの話に戻りましょう。
街全体で自動車に電力供給し、その供給が断続的にあちこちで発生したら、電力系統にどういう問題をあたえるか、ということです。
どうなんでしょうね。
発電所と変電所が耐えられなくなるほどの電流・電圧の変動なのかどうか、そこが問題です。もしそうなるのなら、電気自動車の普及は、難しくなると思います。
ただし、もし「充電スタンドで電力貯蔵する必要が無ければ、電力貯蔵は自動車に積載する電池だけの問題となる」ということです。
ちょっと分かりにくくなってきました。まとめてみましょう。
電気エネルギーを利用する場合、貯蔵が必須となると、貯蔵する入れ物の性能が問われるわけです。
「電気の入れ物」は「油の入れ物」と違って、性能悪いんですね。
① 入れ物に入れるとき、および入れ物に入れている間に、少なくとも1割損失してしまう。(時間が長ければ、おそらくそれよりずっと多い損失となるでしょう。数割?)
② 入れ物の容量が小さい。「油の入れ物」の1割以下。(正確な数値を入手したわけではありませんが... 先述のエネルギー密度の数値を見る限りはそうです)
この2つが、「自動車充電スタンドの地下」だろうが、「電気自動車に搭載された電池」だろうが、とにかく電力貯蔵を行う設備において必ず問題となるわけです。
んー。やっぱり石油にはかないませんねぇ。
特に①は非常に重要です。石油系液体燃料はどんな形のどんな大きさのタンクにも入れても、ほとんど損失しません。
その背景には、「電気エネルギーを貯蔵するときは、電気エネルギーそのもの以外の形態のエネルギーに電気エネルギーを変換しなければならない」という重要な原因があります。
例えば、電池に充電したら、その電池の中では「化学エネルギー」として貯蔵されているわけです。その「化学エネルギー」が持つ「電位差」を後で電流として取り出すわけです。ですから、電池にエネルギーを貯蔵すると、
電気エネルギー → 化学エネルギー → 電気エネルギー
と最低2回変換を起こした上で、ようやくそのエネルギーを本来の目的(この場合は、自動車の原動機を動かすこと)に使うことが出来るわけです。
もし、「発電所→充電スタンド→電気自動車」という logistics を経て自動車が走るのなら、エネルギーの変換は少なくとも4回起こるわけです。もっともったいないですね。
これは③と番号をつけるべきかもしれませんが、その「エネルギーを貯蔵するタンク」を色々な方法で運ぶことができることも、エネルギーを利用する上では重要です。タンクの形状を自由に変えられるのも大きい利点です。飛行機の主翼に合わせて燃料タンクの形状が作られているのなんか良い例ですね。
その上、タンクをたくさん並べ、小分けにして配達することもできるわけです。
こういった性質は、移動手段を自動車(特に自家用車)に依存する社会 - 移動手段が分散化している社会 - にとっては必須です。
鉄道のような「集約化された移動手段」だと、電力のような損失しやすい、小分けに配達しにくい、そういったエネルギー源を動力源とするのがずっと容易になります。
このように、石油系液体燃料は、自由度がとても大きいエネルギー媒体なわけです。