前回書きましたように、その生産効率はともかく、セルロースから澱粉(デンプン)を製造することが今では技術的に可能になっています。

ということは、植物の繊維質からプラスティックを製造できる可能性があるということです。

生分解性プラスティックとして有名なポリ乳酸は、今のところ多くの場合とうもろこし澱粉を原料としています。

ということは、「セルロース→デンプン→ポリ乳酸」という工程が実現できる可能性があるということです。

これと同様の発想で他の化成品の多くも、植物体を原料として製造できるのではないかと私は考えています。

また、#78でご紹介した書籍、「植物力 人類を救うバイオテクノロジー」(新潮選書)の154ページには、以下のような面白い記述があります。

(Quote)  そこで、リグニン合成酵素減らした遺伝子組換えユーカリもつくられている。しかし、リグニンは細胞壁を接着するセメントのような役割を果たしているので、合成酵素を減らしすぎると、ユーカリがひ弱になってしまったり、病気に弱くなる心配もある。...(中略)...

 日本製紙は、すでに低リグニンユーカリをつくっていて、安全性確認試験を始めている。リグニン自身がフェノール性の化学物質であることから、パルプの製造工程で取り出されたリグニンは黒液と呼ばれている。これは単なる廃棄物ではなく、成分的に石油と似ていることからよく燃える。 (Unquote)

「石油とよく似ている」液体を細胞壁の構成物質リグニンを主成分として得られるというわけです。

ということは、植物の繊維質中のリグニンを原料としてプラスティックを始めとする化成品を製造できても、それほど不思議ではないと私は思います。実際、一部のバイオプラスティックがすでにリグニンを原料として製造されているようですし。

それから、バイオテクノロジーを利用した化学産業の良いところは、生化学反応を多用することが想定されていることです。現在の石油化学産業に比べると、投入するエネルギー量が少なくて済む可能性があります。

食糧生産と化学工業、この2つにおいて、巨大な可能性を持っている産業が誕生しつつあるのかもしれません。

ひょっとしたら、農林業と食品加工業と化学工業の境目が無くなるのかもしれません。