#23で書きました昨年からの経緯を見ますと、「まずアメリカで動きが起こり、次に日本で動きが起こっている」ことが見て取れると思います。

また、私は以下の2点に注目しています。

(1) アメリカの軍部が「ハバートのピーク理論はおそらく正しく、予想される石油産出量の減少に今から備えなければならない」という反応を見せていること。

(2) トヨタがアメリカ軍部から接触を受け、ハイブリッド車技術についての調査に応じていること。

軍隊は伝統的に資源をたくさん使うことを前提としています。命がかかっているのですから、仕方がありません。命を懸けて戦うわけですから、資源が手に入る限りその無駄遣いを気にするかどうかは二の次です。

そういう組織が、「資源を節約し、代替エネルギーを使わないと、軍事行動に差し支えるかもしれない」と心配しているわけです。

これは「画期的で重大なこと」だと私は考えています。

また、トヨタがアメリカ軍部の調査に応じていますが、その調査結果が公開された米海軍プレゼンテーション資料は昨年の10月4日付です。ということは、資料を作成した時間や調査にかかった時間、組織内部で検討した時間などを考えると、遅くとも昨年の前半のうちにはトヨタはアメリカ軍部の接触を受けていたと推定するべきだと思います。もしかしたら、もっと早かったのかもしれません。

その接触の際、何があったでしょうか。

アメリカ軍部から「実は石油全世界生産量のピークが近々来そうなので、省エネを図ろうと思う。軍用車両をハイブリッド化したいので、調査に協力して欲しい」と言われたら、トヨタ側としてはどう思ったでしょう。

もし私が当事者のトヨタ社員(役員?)だったら、「これはただごとではない」と、思ったでしょう。

「燃料危機は自動車産業の危機だ。何とかしなければ」とも、もちろん思ったことでしょう。

しかし、こうも思ったのではないでしょうか。

「これは日本の安全保障と日本経済全体に大きな影響を与え得る事象だ。日本政府、まずは所轄官庁の経済産業省に伝えておかないと」

これは、全くの憶測です。私が勝手に妄想を膨らませているに過ぎません。

しかし、こう考えると、今年の5月31日に「新・国家エネルギー戦略」が公開され、その中に「ハバートのピーク」が明記されたのが理解しやすいと私は考えています。

「新・国家エネルギー戦略」の中での「ハバートのピーク」に関する記述は控え目なものです。それでも、石油の全世界生産量がひょっとしたら減少するかもしれない、ということを日本の政府機関が公の場で述べるのは、私の知る限り初めてです。それも、「今後数十年間の国家の方針」となる文書の中で、その方針を立てる上での前提条件のひとつとして取り上げているのです。

「新・国家エネルギー戦略」は、経済産業省の官僚だけで作成したものではなく、昨年終わりごろから民間人を交えた委員会で議論した結果できたもののようですが、そういう委員会も「議論のたたき台となる資料」は官僚が準備するのが普通です。官僚が委員会の議論の方向性を左右することができます。

今のところ、「トヨタ自動車から経済産業省に『ハバートのピーク』とアメリカ軍部の対応について情報提供があった。経済産業省側も事態の重大性に既に気づいている」という可能性を頭に入れつつ、私は事態を観察するようにしています。