11月24日(火)、午後6時前。目的の店は小田原駅から少し離れているようです。初めての街を携帯の地図を頼りに歩き出します。
歩くこと10分強、閑静な場所にそのお店はありました。温かそうな佇まいを醸し出しています。店内に入ると、奥様とNシェフが快く迎えてくれました。私はあいさつのしるしに「もやしの絵本」とこちらへ来る前に洗ってきた「ブラックマッペもやし」を渡しました。そしてカウンターの席に案内されます。この席からだと人の動きや、厨房の様子が見ることが出来ます。この日のお手伝いで呼ばれたというワイン担当の女性が、アルザスのスパークリングを注いでくれました。少し歩いて体が温まっていたので、冷えた黄金の泡が体に染み渡りました。
この日頂いた料理の一部を紹介します。
まずは〆鯖と牡蠣とズワイガニのテリーヌです。ワインに〆鯖はもっとも相性が悪いと思ってましたが、こちらの特製〆鯖は、酢をおさえて、身の旨味を強調した仕上がりになっていました。鯖の脂の旨味がよい塩梅です。
アオリイカとスモークサーモンです。イカはねっとりとした口当たりでした。ワインはマコン・ヴィラージュ、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランを頂きました。この頃になると他のお客様が次々と来店され、厨房がにわかに慌しくなりました。Nシェフの指示、お客様を見渡すマダムの視線が鋭くなります。
フォアグラです。ソースは煮詰めたバルサミコでしょうか。カラメルのように甘くねっとりと焼かれたフォアグラ。私は甘めのワインをいただきました。アルザスのゲヴェルツトラミネールです。この作り手のゲヴェルツは、ドイツのベーレン・アウスレーゼのような濃密な甘みが感じられました。
ブイヤベース。黒ムツが丸一匹というのが斬新です。少し炙ったような風味がありました。鮮度がよいのでしょう。骨がはがれやすく、身が締まっていました。
他にも烏賊飯や、メインにハトのロティーを頂きました。烏賊の写真はピンボケ。ハトにいたっては写真を撮ることすら忘れてしまいましたし、そのとき赤ワインはNシェフに選んでいただきましたが、残念なことに何を飲んだかすっかり忘れてしまいました・・・。さすがに1人で飲む酒は酔います(笑)。
フロマージュです。ミモレット24ヶ月、ウォッシュはモンドール、最後のカマンベール風のはこれまた失念しました・・・。
デザートのクレーム・ド・ブリュレ。濃厚なカスタードの味わいに、リンゴのコンポート?が爽やかです。
コーヒーはイタリアのイリーのものでした。
ワインの最後はイタリア、シチリア島のシラーズ、そしてマダムからはリンゴのブランデー、カルヴァドスを頂きました。
どの料理にも言えるのは、素材の味を生かすことに重きを置かれているような印象がありました。 こってりとしたソースで味をまとめるのではない、いわゆるヌーベル・キュイジィーヌというものでしょうか。
そして料理もさることながら非常に印象に残ったのは、ここには確実な
「幸せな食空間が存在している」
ということでした。美味しい料理、食に対して真摯なシェフ、マダム、他のスタッフたち。この店を愛してやまないお客様たちが、幸せな食空間を醸し出していました。
料理が大方終わった頃でしょうか。私はNシェフに少しだけわがままを聞いてもらいました。
「私が渡したもやしを一口たべてもらえないか」
と。早速Nシェフ、そしてスーシェフでしょうか。もう1人のシェフも生のまま食べてもらったようです。二人は私のところへ来て、その味、食感の違いに驚いたことを伝えてくれました。
私はその言葉だけで、この小田原へ来たかいがあったと思いました。
心地よく過ごしている時の流れは早いものです。私は5時間ほど滞在していたでしょうか。幸せな食空間でのその5時間はあっという間でした。