令和4年9月19日、ラディアンミーティングルーム2にて「楽天モバイルによる住民説明会」が開催されました。この説明会は今年6月定例会で審議され採択された陳情第6号「二宮町753番地の携帯電話中継基地局に関する陳情書」における陳情者の要望を受けて開催されるものです。いわゆる電磁波による健康被害に関する陳情になります。事前の案内では、「この問題に関わった二宮町の職員の方、実際に電磁波過敏症で被害にあわれた方、電波塔が建っている地権者の方の参加を予定し、色々な角度からの問題を討議したい。」との説明がありました。

 ミーティングルーム2は定刻までに満員となり関心の高さが伺えました。ただ、この中には大磯町議3名を含む大磯町民が多く参加していました。その理由は陳情に際して問題となっていた二宮の基地局は既に撤去された一方で、大磯でも同様の事案が起こっているにもかかわらず大磯町の対応が不十分であることが背景にあるようです。

(説明会開始直前の様子)

 

 説明会は陳情者の一人である元町地区長の高橋哲夫氏の司会進行で進められました。楽天モバイル側からは社員3名が、また受け付けは役場職員の都市部長以下3名が対応していました。

 

これまでの経緯

 冒頭、高橋氏から、「問題となっている携帯基地局は既に9月15日に撤去されている。」としたうえ、これまでの経緯の説明がありました。楽天モバイルが携帯基地局設置のために該地を確保したのは昨年5月で、同月18日に周辺住民へ戸別に説明を行ったとしています。説明の対象は半径30メートル以内の範囲の居住者に限定したのですが、その理由は設置する携帯基地局が仮に倒壊した場合、落下物による被害が想定される範囲であって、電磁波による被害は想定していないとしています。携帯基地局が設置されたのは12月21日で、設置に際しての許可申請は不要であるとのことです。その後、年が明けて令和4年1月6日に陳情者の一人である村上氏は陳情提出にあたり楽天モバイルに電話で質問をしています。楽天側から回答はありましたが、既に楽天は戸別に住民説明をしているので、(説明対象範囲外に居住の)村上氏とのやり取りは「個別対応」としたい旨、元町南地区長(高橋氏の前任)へ連絡がありました。

 地区では3月から住民への説明会(半径30メートルに限定しない)を求める署名活動を開始し282名集まったとしています。この署名結果を添えて4月21日付けで「住民説明会開催のうえ楽天モバイルに対して質問に対する説明を要求してほしい」とする陳情を議長あてに提出しています。楽天モバイルは5月10日付けで村上氏に対し、電話にて質問に対し回答するとともに、説明会開催の方向で検討している旨説明がありました。陳情は6月6日の総務建設経済常任委員会の審査にて全会一致で採択されましたが、その際に高橋氏と村上氏は趣旨説明に来ています。陳情は6月14日本会議でも採択されました。これを受けて村田町長名で楽天モバイルに対して説明会開催の要望が出されることになりました。

 その一方で議長あてに陳情書を提出した4月に基地局設置場所の地権者が建設会社から個人の方へ譲渡されていて、その際には設置契約は継承されるも、陳情が採択された6月に新しい地権者は楽天モバイルとの設置契約を見直したい旨の意思表示あり、7月19日に設置契約を継続しない旨の申し出あがあり、9月15日に中継基地局は撤去されました。

(中継基地局)

(現在、基地局は撤去されています)

 

楽天モバイル側の説明に疑問

 最初に楽天モバイル側から「電波と安心な暮らし」と題する総務省作成資料による電波防護指針全般に関する説明があるのですが、長時間に渡ったことでもう一人の陳情者村上氏が説明の中断を要求。司会者はこれを認めず村上氏と口論になり村上氏が退室を命じられる一幕がありました。

 

https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/ele/body/emf_pamphlet.pdf

 

私の印象でも確かに説明は長くしかも総務省作成のネット上に掲載されている資料をそのまま、加工することもなく使用するといった少々雑なやり方でした。

 続いて楽天モバイル側は陳情に示されている7項目の質問に対し回答をするのですが、既に中継基地が撤去されていることから質問自体に意味がなくなってしまっている感がありました。続く質疑においても、二宮町民にとって懸念が払しょくされていることから、発言の多くは大磯町民によるものでした。そして発言を通して、大磯町に置ける深刻な状況が明らかになりました。

 

大磯町民の窮状

 説明会は陳情を受けて開催したもので、本来の対象は二宮町民ですが、前述の通り問題となっていた携帯基地局は既に撤去されています。二宮町民の不安は払拭されている一方で、自宅付近に設置されている携帯基地局による健康被害を訴える複数の大磯町民が説明会に参加、質疑の際にその窮状を訴えていました。複数の大磯町民が住所と名前を名乗ったうえで具体的な健康被害の症状を説明していましたが、そうした中で楽天モバイルに対し不信感を抱かせるような告発がありました。告発者は携帯基地局設置場所の地権者で、近所の方から健康被害を訴えられていました。この事を受けて楽天モバイルは地権者に対して「近所からクレームがあった場合はクレーマーに対して『警察を呼ぶぞ!』と言うように」と指南されていた、との信じられないような証言がありました。これに対し楽天モバイル側は、これを事実と認めるとともに「クレーマーの中には暴力的な人もいるため」と弁解していました。

 大磯町議の石川則男氏は、携帯基地局の影響で保育園児に鼻血が多いという宮崎県での事例について説明。鼻血は保育園から外に出ると顕著に多くなり、運動会においてもその傾向が現れていたとのことです。そのうえで企業は利益を上げるなら、健康被害にも向き合うべきとしました。「現時点では因果関係がはっきりしていないとの立場をとって責任が不明確でも、将来証拠が明らかになってからでは遅い。」として日本弁護士連合会が2012年に国に提出した意見書に言及注1)。更にフランスでは「予防原則注2」という考えが、高等裁判所において2009年に住民勝訴の判決を下している状況を紹介しました。余談になりますが、石川町議は、任期満了に伴う大磯町長選(11月22日告示、同27日投開票)で無所属で立候補する意向を固めたことが10月4日付け神奈川新聞で報じられています。同氏は町長選に向け10月1日付けで議員辞職しています。

 

注1)    日弁連は、2012年9月13日付けで「電磁波問題に関する意見書」を取りまとめ、同年9月19日に環境大臣、経済産業大臣、厚生労働大臣及び同年9月20日に総務大臣宛に提出いたしました。

 

注2)予防原則(よぼうげんそく)とは、化学物質や遺伝子組換えなどの新技術などに対して、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方のこと。1990年頃から欧米を中心に取り入れられてきた概念であるが、「疑わしいものはすべて禁止」といった極論に理解される場合もあり、行政機関などはこの言葉の使用に慎重である。予防措置原則とも言う。欧州では、この概念を食品安全など人の健康全般に関する分野にも拡大適用しはじめたが、他の国・地域では必ずしも受け入れられていない。(Wikipedia)

 

何故携帯基地局は撤去されたのか

 これは坂本議員による質問です。楽天モバイル側の説明では、新しい地権者の該地における工事の支障になるためとのことでしたが、そもそも基地局設置当時の地権者とはどのような契約を結んでいたのか、との質問に対する楽天側の回答は「開示できない」というものでした。また、当初楽天は説明会をやらないとしていたため、署名を集めて陳情に至っています。にも拘らず役場を介入させて陳情前の説明会開催に向けて高橋氏にアクションを起こしています。これら一連の楽天の動きに違和感を感じるとしました。

 

今後の展開について、こう考えます。

 既に説明した通り、今回の陳情の原因なった基地局は既に撤去され、陳情で求めていた説明会も開催されたので、陳情そのものに新たな展開はあり得ません。然しながら基地局そのものは町内に多数存在し、中には町有地に設置されているものもあります。今回の説明会に参加した多くの大磯町民の窮状を目の当たりにして、同様の問題が今後、二宮町でも起こる可能性は大いにあると考えます。行政や事業者は「安全基準満たしている」と主張しますが、その一方で前述の大磯町議石川氏から説明のあった日本弁護士連合会の意見書を国が黙殺することは国民感情が許さないと考えます。更にフランスでの高等裁判所判決を「外国での出来事」として片づけることも出来ないでしょう。電磁波が人体に与える影響に人種差は考えられません。手続き上、一方通行として処理することも出来る意見書と違い、「判決」は比較にならないほど重たいものです。

(住宅地に隣接する公園内の基地局)

 

フランスの高等裁判所判決

 基地局の電磁波が人体に与える影響を巡る問題の今後の展開を考えるうえで、この判決は非常に重要であると考えます。従って、事実関係をしっかりと抑えようと考えいろいろと調べたのですが、残念ながら判決そのものを直接紹介している資料を検索することは出来ませんでした。然しながら、この判決を引用している資料は散見され、その中には法務局ホームページも含まれていることから石川町議の説明は事実であると捉えています。説明会当日の「フランスの高等裁判決」を含む石川町議の発言の確認のため町議と直接話す機会がありました。その際に以下確認した判決内容を紹介します。

 

<フランスでの予防的医学を巡る勝訴>

予防原則」という考え方が、フランスベルサイユ高等裁判所において2009年2月4日に住民勝訴の判決を下した。健康リスクに関する科学的論争は未だ結論を出せていない。しかし、ブレーグ社は電磁波リスクがないことを証明していないし、予防原則を尊重していないリスクは確かにあるし、それは仮説ではない。そしてリスクに反して暴露されることは、生活妨害となるし健康と関連する事実が存在する中で下すことは特別の質の生活妨害である。こうしたリスクを取り除くには基地局撤去以外にない。

 

予防原則」という考えを今後、日本の司法がどう判断するかを見守っていきたいと思います。