「しかたないだろ!オレだって・・・」

タモツは携帯に向かって声を荒げたが、レナの応答はなく、代わりに「ツー、ツー、ツー」という虚しい音だけが繰り返された。

「面倒クサイなぁ…」

タモツはワンルームの天井にぶら下がった蛍光灯のヒモの先端を見つめながら呟いた。
タモツがレナと付き合うことになったのは、大学時代のテニスサークルで夏合宿に行った最後の夜だった。
みんなが寝静まった中、宿舎から抜け出したタモツは、丘の上で満天の星空を見つめながら、将来の不安と向き合っていた。
たいして刺激的な思い出もなく過ごした大学の4年間が終わろうとしている。就職活動も上手くいっていない中で瞬くキレイな星々をタモツは疎ましく思った。

「な~にしてんの?」

ビクッとして振り替えると、そこにレナが立っていた。
サークルの女子の中でも地味なほうの彼女を、タモツはいままで意識したことがなかったが、暗闇の中、月明かりに照らされたレナは、とても魅力的に思えた。

「いや、ちょっとな…」

すると、レナはタモツの横に座り、一方的に静かに話し始めた。
彼女が話したその内容は、さっきまでタモツが星を見つめながら思っていた悩みと一緒だった。

「悩んでるのはオレだけじゃないんだな…」

タモツは心の中でそう呟くと、レナの肩を抱き寄せた。
そして、ごくごく自然な流れで、二人は付き合う事になった。そこには告白というロマンティックなシチュエーションもなく、ごくごく自然の流れで…。