慢性痛を抱える人へ | 伊藤和磨オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 毎日痛みと不調を抱えている人たちと対話し、体に触れている。鬱やパニック症、統合失調症を患っている人も少なくない。
 苛立っている人、意欲をなくしている人、懐疑的な人…様々だ。

 慢性的な痛みに悩む患者さんたちに、共通している思いは「この痛みと辛さを理解して欲しい」という事。
 なかには、世界の不幸を背負っているような気持ちで生きている人もいる。全身から負のオーラを放っている。

 自分の症状については、事細かく話すのに、他人の話や気持ちには、ひどく鈍感。
 他人が感じている痛みより、自分の痛みの方が何倍も辛いと思い込んでいる。

 そういう患者さんと対峙したときに、以下のような話をしている。

「実は私、椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛なんです。今も左下肢全体が痺れていて、脛を犬に噛まれているような痛みがあるんですが、わかります?」と冗談っぽく言うと、

「いえ…わかりません。そんなに酷いんですか?」

「調子悪いときは、300m毎にガードレールに寄りかかって休んでます。痛くて歩けないから。でも、わからないでしょ?そんなもんですよ。」

「…。」

 鬱の患者さんが来たときは、90分話だけして終わる場合が多い。治す方法よりも、治らない考え方や行動パターンを改める方(=認知行動療法)が効果がある。

治そうと思わずに、自分の心と体=身と付き合っていく、向き合っていくというスタンスも必要。

 いつも、こっちが痛いあっちが痛いと訴えていると、周りの人たちはウンザリする。やがて、耳タコになって無反応になる。
 その様子を見て、苛立ったり孤立感を抱いたりしてしまう。その気持ちは、よく理解できる。
 しかしながら、他人の痛みを共有したり共感したりするのは不可能に近い。

 人の痛みは100年でも耐えられる。
これが真実。

 理解してもらいたい、という願いを一旦捨てて「どうせ分かるわけないのだから、言うだけ無駄」と、考えの初期設定を変更してみる。そうすることが、負のスパイラルから抜け出すための助けになる。

 体の内的感覚に鋭敏になり過ぎると、気丈な人でもおかしくなってしまう。早期に対処しないと、精神を病ませるリスクが高まる。

 抱えている痛みを癒すには、他者の痛みに意識を傾けることが、経験則から大事だと思う。
 他者の苦痛や悩みを知ろうとする行為(=外の世界に意識を傾けること)によって、背外側前頭前野という前向きなネットワークのスイッチが入る。すると、抱えている痛みと辛さが緩和していく。
 
 誰だって自分の話を聴いてほしいもの。
外の世界と人に意識を傾け「そんな状況でよく頑張ってるね」「へぇ、立派だな」などと、称賛や共感を示す言葉をかけてあげる。続けていると、今度は自分の話を傾聴してくれるようになる。
 
 優しくしてほしいときは、優しい言葉をかければいい。思い遣って欲しいときは、思い遣る言葉をかける。

 「そんなゆとりも余裕もありません」と反発する人もいるだろう。
 ゆとりがないからこそ、外に目を向けてほしい。
 この時代に生きて、余裕こいて生きている者など、ほぼいない。
 辛い顔と態度をさらけ出せば、鏡のように周囲の人たちの表情も態度も強張る。
 そんな環境を自ら作り出していることに気づけたら、自ずと接し方が変わってくる。

 私自身、20代後半から首や腰の慢性痛に悩み、つねに苛々しながら仕事をしていた。
 怒りの粉を周囲に撒き散らしていたと思う。
 3年前、立てないほどの腰痛を再発させて、色々と考えさせられた。自分の体を憎たらしくも感じたが、自分の身は自分で守るしかないこと、削るばかりではなく労ってあげる必要性に気づいた。
 以来、痛さや辛さを口にすることをやめて、出来るだけ、ご機嫌に振舞うことに決めた。痛くても気に留めないように。

 この頃は、「マロくん腰痛治ったの?」と言われる機会が増えた。なにひとつ治っていないが、態度に示さないので、誰にも悟られなくなったのだ。周りに気を遣わせるより、このほうが、ずっと良いかなと思う。


 開き直って、できるだけ口角を上げて過ごす。微笑んで表情筋を働かせるだけで、大脳皮質の働きが活発になり、不思議と気分が明るくなる。

 疲れが溜まったり、痛みが強くなったりするとゆとりがなくって、顔も心も固まってしまうが、できるだけ人前では穏やかにしている。

 明るく振る舞うことで、脳内で痛みが修飾されて増強してしまうのを回避できる。何年もかけて、そのことを悟った。それと、他者に共感すること。この2つを実践すると、痛みの感じ方をコントロールできるようになる。

 慢性痛で心が折れかかっている方や、負のスパイラルにスタックしている人は、無理のない範囲でトライして頂きたい。