自分の中のバグ | 伊藤和磨オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 脳幹には1秒間に4,2000億ギガバイトの情報量が、全身の細胞や組織から伝達されている。
 この情報量は、映像に変換すると28年分に相当する。

 脳幹レベルでの情報処理は、無意識下でなされるため、私たちがそれに気づいたり、意識したりすることはない。
 脳は意識している事や、興味がある事だけにフォーカスし、それ以外の情報や刺激を無視することに長けている。そのお陰で、私たちは日常生活を平穏に過ごせているのだ。

 しかし、なかには普通では感じない無意識レベルの感覚や刺激にフォーカスしてしまう人たちが存在し、そのことで非常に悩み苦しんでいる。

 「座っているときに、右の坐骨が2度くらい内に傾いています。それを調整しようとすると左肩が痛くなり、頭痛もします」

「 肩甲骨の位置を直そうとすると、血圧と脈拍が上がって心臓が締めつけられる感じがします」

「親知らずを抜いてから、骨盤が捻れてしまって、どうやって立てば良いのか、もう分からなくなりました」

「四六時中、腰の痛みのことを考えてしまって、なにも手につきません」

 問診しながら真剣に傾聴していると、こちらがおかしくなってきそうな話が延々と続く。
専門の医療機関で検査しても、大抵は何の異常も見つからない典型的な不定愁訴。

 このような感覚的な問題、つまりバグやエラーは、残酷にも本人にしか分からないものであり、他人と共有したり共感したりすることが難しい。

 幸か不幸か、哀しくなるほど私の体はあちこち故障しているので、一般的な医療従事者よりも、不定愁訴に悩む人たちの気持ちや感覚がよく理解できる。

 世界中の不幸を背負っているかのように、絶望的な態度を示していた人でも、私の過去から現在に至るまでの体験談を話すと、急に前向きになる患者さんもいる。

 過去や症状が顕在化する前の自分と比較しても、あまり良いことはない。
 毎日毎時間毎秒、体の細胞は老いているのだから、長く生きてくれば、不具合の5や6つ生じてもおかしくはないだろう。

 これが自分の体であり、誤魔化しながらも、温存しながら付き合っていくしかないと、自分に言い聞かせることも大事。

そうすることで、ネガティヴで偏執的・固執的な思考回路の増強・固着させる内側前頭前野と扁桃体の活動を抑制し、ポジティブで開き直りの思考回路の背外側前頭前野が活性する。
 車でも機械でも、大なり小なりバグ(不具合)はある。
 ましてや37兆個の細胞で構成されている人体となれば尚更のこと。
 程度によっては看過できない病態もあるが、完全無欠でいようとするなら気が滅入ってしまう。

 誰かに助けてもらおう、誰かが助けてくれると思っているうちは、本質的な改善は望めない。
いい意味で諦めて開き直ること。

 どうせ誰も分かってはくれないのだから、一人でいじけていても損。
 何とかできることだけ考えて、何ともならないことは考えない。
 
 そんな事を話しながら、病巣と思われるところを丁寧に治療していると、来た時とは別人のように変わっていく。

「飛行機に乗ってでも、行った甲斐がありました」

 後日、こういうメッセージが患者さんから届くと、本気で対峙して良かったと思える。
 そして、どんなに最悪な経験をしても、誰かの為に活かせば無駄にはならないのだと改めて思う。

 こうあるべき。こうでなければいけない。
こういう考え方は危ない。

 思い通りにいかないのが人生。

 自分の中で生じるバグやエラーを受容してあげられたら、人はもっと楽に生きられると思う。