ビッグ3信奉
ビック3と呼ばれるスクワット、デッドリフト、ベンチプレス。
筋トレと言えば、先ずこの3種目が浮かぶアスリートがほとんどだろう。
下半身を鍛えるならスクワット。押す力を強化するならベンチプレス。背面の筋力と挙上能力を向上させたければ、デッドリフトを勧めるトレーナーが多勢を占める。
しかし、この3種目はウェイトリフティング🏋️♂️の競技者にとっては重要であるが、ほか種目の競技選手にとって、必ずしも必要な能力とは言えない。
むしろ、やらない方がよい競技もある。
ベンチプレスで挙上できる重さが増しても、それがパンチのパワーアップに直結することはないし、スクワットで大腿の周囲が増しても、それがキック力の増加には繋がらない。
個別の要素を高めても、全体のシステムが向上するわけではないからだ。
不安からの筋トレ依存
技術的な向上は一筋縄ではいかないが、筋量と筋力の増加だけなら、マメに筋トレしていれば確実に結果がついてくる。
日々、不安と闘いながら限界を引き出すことに腐心しているアスリートたちにとって、短期間で体のサイズと筋出力の増加が実感できる、筋トレに没頭したくなる気持ちはよく分かる。
カーショップでパーツをカスタマイズしていく感覚にも似ている。
だが、ジムゾーンにハマっているアスリートたちで、望んでいた結果が得られた人を、自分は知らない。
外見的な見栄えが良くなり、躯体が強くなった気になったとしても、ピッチやコートのパフォーマンスに連関する可能性は低い。
それにも関わらず、高重量のバーベルやダンベルを無理に挙げようとして、腰痛になったり四肢の関節を壊してしまったりするケースが後を絶たない。
重量挙げの選手ではないのに、いつしか重量挙げの選手のようになってしまい、それで怪我をしたりパフォーマンスが下がるとしたら本末転倒だろう。
合目的なエクササイズなのか
これまで、様々な種目のアスリートたちを診てきたが、どんなときでもスクワットを欠かさずにやっている人が多かった。
腰ベルトや膝のサポーター、マウスピースを装着して高重量のバーを担ぐスクワットに、そこまでの意味と効能があるのだろうか。
(バーを担いだ時点で胸郭が過度に拡張するため、腹筋群が伸張されて腹圧が低下し、腰への負担が一気に増大する)
あれほど胸を張り、尻を突き出した格好になってしまったら、体幹の強さもへったくれもない。
そもそも 大半の競技は前進する力か、体を回旋させる力が要求されるわけで、スクワットで獲得した筋力を発揮する機会は極めて少ないと言えるだろう。(スクワットのフォームについて議論する前に、本当に筋力不足が原因でパフォーマンスが上がらないのかを議論すべき)
はじめは、骨盤と腰椎のカーブをコントロールすることが苦手で、力を発揮したときに骨盤が後傾していた。
この選手もスクワットで大腿部の前面を鍛えあげてきたのだが、画像を見て分かるように力のベクトルは前方にあり、その際に使われるのは大腿の背面。
日本古来の鍛錬
スポーツの指導者とアスリートの中には、長年伝承されてきたビック3の呪縛から抜け出せないまま、漫然と筋トレをしている人たちがいる。
近年のスポーツ科学は、とかく筋力に頼りすぎる傾向がある。やれ「なんとか筋が大事」だ、「なんとか筋を鍛えろ」と言う専門家もいるが、実際はそんなに単純な話ではない。
古来から、日本の武芸や芸道の世界では、筋力だけを単独で鍛えることをしてこなかった。相撲や合気道、空手の稽古では、実戦的な動きのなかで体を総合的に鍛えることはあっても、筋肉を個別に鍛えることはしない。
できる限り筋力(運動エネルギー)を使わないで、強い力を発揮するために骨の位置(関節のポジション)に重きが置かれてきたのである。これこそ、自然体とも言える。
「骨をつかむ」という言葉があるが、これは無駄に筋肉を使うことなく動作を骨に任せることによって、最小限の力で最大限の運動効率を発揮することを意味する。達人クラスの人たちは皆、余分な力が抜けているのは、骨で立ち歩くコツを知っているからに他ならない。
スポーツ指導者やアスリート諸氏には、僭越ながら今日までの「習慣的なトレーニング」に疑いの目を向けて、それらが競技の特異性にマッチしているのかを、今一度再考して頂きたい。
きっと、不要なものが混ざっているはず。
頭を使うとうことは、前提や過去を疑ったり取っ払ったりすることから始まるのだと、私は考えている。
質の良いトレーニングは遊び心から生まれる
質の高いトレーニングを考案するには、遊び心と想像力が欠かせない。セオリーと固定概念を捨てて、思わず笑ってしまうような馬鹿げた発想から、斬新で効果的なトレーニングプログラムが生まれる。
ジムゾーンでカチャカチャと器具を持ち挙げる世界から離れ、何もない空間でメニューをつくることによって、新たな発見と尽きない楽しみが生まれるのだと思う。