この時期になると清掃業に就いていた頃の事を思い出す。
ワックスをかけた後のモップを、道端で数十分かけて洗い絞り込む。
それが新人の自分に任された仕事で、自分がまともに出来る数少ない仕事だった。
ただ漫然と生きていたが、それでも「このままではいけない、俺はこんなもんじゃない」という焦りと危機感だけはあった。
清掃業を転々していたある日、バイトの求人雑誌anで良さげな清掃業の募集が目にとまった。
早速、電話でアポを取りつけ、高円寺の汚い喫茶店で面接を受けた。
相手は、頭の禿げた中年の社長さんだった。
履歴書をテーブルに置き、めいいっぱいの自己アピールをする。
黙って聴いていた社長が一言、「君は、この業界にむいてないよ。もっと活躍できる場所がある」と言った。
はっ?
だから俺、頑張りますから!と食い下がったが、社長の目を見て、これ以上何を言っても無駄だと直ぐに悟った。
それは、突き放しても愛情のこもった眼差しだった。
今となっては、名前も顔も覚えていないあの人に、深い感謝と敬意を表したい。
一瞬で人の性質を見抜ける、稀有な人だった。