今日は一日休みの日。


洗濯ものは昨日のうちに済ませた。

寮の同室の気の合わない先輩(年下だけど)は、今日は朝から勤務日なので、のんびり。


その先輩がいると、ちょびっと落ち着かないのだ。ほとんど外泊も外食もしない先輩は、明け番や休みの日は寮にいるのだ。


とても親切な人だけど、何せ相性が悪い。

会社に一昨年10月に入社して、それはそれは親切に仕事のコツをいろいろ丁寧に教えてくれた。


部屋に全て備わっている電化製品を使っていいよ、と。

それが、私の持病の双極性障害の鬱状態で、長らく仕事を休んだ辺りから、雲行きが怪しくなった。


自分から見て、とても気難しい性格だったのだ。


端的に言うと、「電化製品を使わせてやってるんだから、共同スペースの掃除くらいしろよ!」


自分の前にいた人は、電化製品使わせてもらうお礼に、壁をキレイにしたよ、と。

〈このボロボロマンションの汚ったない壁なんて拭くの無意味だろ〉というのが、私の素直な気持ち。


自分の感覚だと、人に親切にすることは、全く見返りを求めない無償の親切。

そんな教育を親の背中を見て、自然に会得した心得。


それが違う感覚だと、まあタチが悪いのだ。


精神的疾患があると、誰もが暴れて刃物を振り回すことがある、とも思っている。


無知は誠に恐ろしい誤解を生むのだ。


まあ、この話しは今日はここまでにしておこう。


相性の悪い相手の愚痴を言っても、何も解決にならないし、そんな話しは出来れば聞きたくないものでしょうから。


前回の乗務は、なかなか売上げが伸びずに苦労した。

今月の今までのペースで行けば、結構余裕で90万円をクリア出来そうなのに。

思わぬ日に予期せぬ壁が立ち塞がった感じ。


焦ってジタバタしても、何の解決にもならないし、良くない方向に行きがちなので、じっと機会を狙わなければならないのが、この仕事で上手くいくための秘訣。


そんな夜20時過ぎに、会社の無線配車依頼が来た。

昔は、無線センターてお客さんからの配車依頼の電話を受けると、無線で空車のタクシーを呼び出して探すシステムだった。

昔のタクシーに乗った方なら、車内の無線機から

「川崎区榎町6番地 〇〇様 いかがですか?」

見つからないと、

「10分いかがですか?」

「15分いかがですか?」


タクシーの運転手さんは、お客さんが乗ると無線のボリュームを絞るので聞く機会はなかなかないけど、それを忘れると無線センターの担当者の声が、そんな空車のタクシーを探す声が車内に響く。


好奇心旺盛な自分は、「いいよいいよ運転手さん、それ面白いから聴かせて☺️」


いろいろ無線の豆知識を運転手さんに聞いたりした。

その頃は、まさかタクシー乗務員になるとは、思ってもみなかった若い頃である。


東京で、なんでこの辺りは空車のタクシーがたくさんサボっているんだろう、と思ってた場所が、無線の入り易い場所だったりすることをタクシーの運転手さんとの雑談で知ったりもした。


今の時代は全てコンピュータが手配する。


お客さんが無線センターに電話してくるまでは一緒である。

そのお客さんの電話番号が登録されていれば、その住所地も登録されており、パソコン上で一番近くにいる空車の車に自動的に配車依頼が通達される仕組み。


空車でも無線を受けたくない時、休憩や食事、トイレの時は「離れ」というボタンを押しておかないと、その近所にいると自動的に配車依頼が来てしまう。


その夜は、駅から歩けるけど少し離れた住宅街から無線配車依頼が来た。

躊躇なく受けるボタンを押すと、自動的にその住所地までナビが出る。


ナビゲーションシステムがこの世に出る前は、乗務員がその住所地まで自力で行ったのかと思うと、昔のタクシー乗務員はプロ中のプロだったんだなと感心する。


市立病院近くの少し暗い狭い道を行ってその一戸建ての住宅に到着。

お家から女子中学生と脚の悪いおばーちゃんが乗り込む。


「近くで悪いんだけど、大島のライフまでお願いします」


『近くで悪い、なんて恐縮しなくていいですよ、おみ足が悪いのに夜道は危ないですから、遠慮なさらずに』なんて会話で出発。


明るい女子中学生はお孫さんのようだ。


『おばーちゃんが激おこで・・・』


話しを聴くと、女子中学生はハキハキと分かり易く説明し始めた。

母娘の乗車もよくある。

女の子への質問でも、ぜぇ〜んぶお母さんが答える母娘もいるのに、彼女はハキハキ明快だ。


どうやら、学校で健康診断があって、女子はスポーツブラを付けなきゃいけないそうだ。


そう言われると、確かにそうだ。

自分らの時代はどうだったっけ?

さっぱり覚えてないけど、男子と女子は分けられてたな・・・


それを用意していなかったから、おばーちゃんが激おこになったらしい。


お母さんは仕事で出張中で、電話で会話をしたらしい。

お母さんの出張先はロンドンだという。

ひぇ〜😆


お母さんが出張で羽田空港に行く時に、うちのタクシーを呼ぶから、いつもお願いしている、とおばーちゃん。


健康診断の前日のそれも夜にお孫さんが、そう言い出したから、おばーちゃんは叱ったのだろう。


だから、夜8時過ぎに衣料品も売ってる近所のスーパーのライフに行くことになったのだろう。


女の子は「おじーちゃんももっと激おこだったの💦 なんで今頃そんなこと言い出すんだ、って」


そんなお母さん不在の中、祖父母両方から叱られても、女の子は「激おこなの」なんてケロッとしてる 笑。


私は、いつものように頭の中で勝手に妄想した。


〈お母さんは出張でロンドンに行くぐらいだから、すんごい仕事をしてるんだな。だからムスメさんもしっかりしてるわい〉


もちろん、聞くこともなかったが、お父さんは一緒に住んでいないのだろう。


「お母さんが出張でいない中、おばーちゃんだけじゃなく、おじーちゃんにも叱られちゃうなんて大変だなぁ〜☺️ 学校で用意するものなんて、お友達とのお付き合いとか部活もあるから、後回しになっちゃうよねぇ〜」


せめて、私だけでも味方になろう。


スーパーのライフはご近所なので、5分もしないうちに到着。

もちろん、初乗り料金500円。迎車料金を合わせて1,000円。


おばーちゃんは脚が悪く、歩くのも大変そうなんで、


「お買い物済んだあとも、タクシーで自宅に帰りますか?」

「ここじゃ、タクシー呼ぶのも大変だから、待っていて、また自宅まで送りますよ」


うちの会社の無線センターの電話番号はたぶん自宅の電話だろうし、慌てて出て来たから携帯電話持ってるかどうかも分からないし。


快諾を得たので、迎車ボタン(500円)を押して、脇道で待つことにした。

迎車にしないと、他のアプリ配車とか無線配車が入って来るから、その了解も得た。


15分ほどして目的の品を購入して、二人は出てきた。女の子は脚の悪いおばーちゃんに気遣いながら歩いて来る。


そういう光景は、今家族がいない自分には、心が和む光景である。

待った甲斐があったもの。


おばーちゃんは、「近くなのに」と何度も感謝の言葉を述べる。

「こんなにも親切にしてくれるタクシー運転手さんがいるなんて・・・」


『あんたは、優しいだけが取り柄だね☺️』なんて、母の生前の最期に近い言葉をふと思い出す。


〈優しさだけって、他には無いんかぁ〜い 笑〉


もう15年近く経つけど、その時誓ったんだ、自分にね。


「いいよ、その優しさだけを武器に生き抜いてやるよ💪(´・_・`💪)」


こんな時に活かされる?もの。


他人に親切にして感謝される快感は・・・

堪らん・・・。


おばーちゃんも女の子も最大限お礼を言って降車していった。

おばーちゃんは、予想以上の親切を受けたからか、

『私もこれからは、孫に怒ってばかりじゃなくて優しくしないとね』なんてことも言ってた。


お孫さんの女の子の立ち振る舞いをみると、おばーちゃんが叱る意味をしっかり理解しているみたい。

もしくは、おばーちゃんが激おこになっても、意に介さない精神力があるのかもしれない 笑

おばーちゃんからは、感謝の気持ちとしてチップを1,000円も頂いた。

「いやいやこんなには・・・」と恐縮しながら、遠慮なく頂いた。


タクシー内でのチップ、たまにあるけど、

「ご馳走になります」と言ったり、

「それでは、遠慮なく頂きます」と言って、私は気持ち良く受け取ることにしている。


何らか感謝の想いを無下にしたくないから、という思いで。

 とても良い祖母とお孫さんの関係を見て、その日の売上げは今月最低だったけど、心の充足感は最高潮になった。