別に用事はなかったけど、久振りに実家に帰った。
今住んでるとこから車で約30分、もうすぐ春に向かう慣れた道、法定速度で気分はそよ風。
夜になると灯りは少なく、ちょっと危ないんじゃないかなんて思うけど、昔は何も感じなかったな。
テレビで見る都会の景色にリアリティはなかったし、ずっとこんなもんだと思ってたかも。
知らないって寂しいことだと思うけど、知らないまま死ぬのも案外幸せなことなのかもしれないし、ってかこんなこと言ってたら地元の友達にぶっ飛ばされるのでここまでにしよう。

実家に僕の部屋はない。
弟に乗っ取られ、僕の荷物はたぶん物置きにぶち込まれてるのだろう。
そう言えば電子ドラムも見当たらない、間違いなく壊れてるだろうな、ちくしょう。
いない奴の居場所はない、そうだよな、俺の周りもそう。
去って行く奴に「ちょっと待てよ」って上手に言えない僕の周りは特にそう。
いつの間にか何も思わなくなった。
「なんだ、お前もか」くらいの感覚。
性格が悪いって言われたらそれまでかもしれないけど、こうやって自分を守ってるのかもしれないから、僕はあまり気にしてない。
嫌いな奴は嫌い、去る者は追わない、今はこれでいい。

ボーッと晩飯を食べてると、父が新聞の切り抜きを見せてきた。
「まちかど」って言う小さなコーナーに父がのったらしく、まあ、自慢したいわけですな、さすが我が父。
そこにはインタビューと言うか、顔写真付きで短いコメントが掲載されていた。

【若いころからフォークソングを歌っています。音楽は人を育て、勇気を与えてくれるもの。自分の感性を発揮できる場でもあり、これからも続けたいですね。】

帰り道、車の中で自分の新しいアルバムを聞きながら、僕は少しだけ泣いた。
恥ずかしいけど、どんなロックスターのインタビュー記事より響いたような気がしたのは、たぶん、もうすぐ訪れる春のせいだと思うことにしよう。