前回に引き続き、当院心理士の小野より、遊戯療法についてご紹介いたします。

それでは、どうぞ。

 

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大人にはカウンセリングで心の作業をしていくことはお話ししました。でも、子どもはまだ言葉を使って自分の気持ちや置かれている(主観的な客観的な)状況を十分に表現したり考えたりすることはできません。そこで子どもには言葉を手段としない心理療法が必要となります。それが‘遊戯療法’です。

 

単純に、‘遊ぶ’ことにはエネルギーを回復させる力があります。思いっきり走り回って追いかけっこをしたり、同じ本を一緒に読んで笑いあったりしただけで気持ちが晴れた体験は皆さんお持ちではないでしょうか。遊戯療法ではもちろんただ遊んで楽しくてすっきりするということを目指しているのではありません。

 

実は子どもたちは遊びの中で自分の不安や苛立ち、寂しさなどを実に豊かに表現してくれているのです。よく知られているのは阪神淡路大震災の後、避難所で子どもたちが“地震ごっこ”を始めたという例です。大人たちからすれば、なぜそんな怖い体験をわざわざ繰り返すのだろうと感じたかもしれません。でも、子どもたちにとっては自分たちが味わった“突然襲ってきて何もかも一変させたなにものか”は言葉で「地震こわかったね」と言うのでは表しきれない体験だったのです。その遊びを繰り返すことで、子どもたちなりにその体験を自分の心に収めていく必要があったのでしょう。

 

遊戯療法の中で、子どもたちは絵を描き、人形遊びやごっこ遊びを通して言葉にならない(と言うよりも、自分で意識もできていないことの方が多いかもしれません)自分の状態を伝えてくれます。ボール遊びなど、体を使う遊びで表現してくれる子もいます。当クリニックには‘箱庭’も置いてあります。‘箱庭療法’というものを耳にしたことのある方もいらっしゃるかもしれません。砂が入った箱の中に動物や植物や人や貝殻、ビー玉など様々なアイテムを使って好きなように作ってみる、という心理療法の一つです。これは大人の場合でも言葉や意識で捉えられない自分の問題に向き合っていく時に使われるもので、先に述べたカウンセリングの中でも取り入れていく場合があります。セラピスト(遊戯療法の場合、こう呼びます)は一緒に遊びながら、子どもたちの気持ちに寄り添い、時には言語化して返すことによってしっかりと受け止めて混乱や傷つきから回復していく手助けをしていくのです。そのため、遊戯療法室(当クリニックでは‘ふかふか’という楽しい名前がついています)には子どもたちが自分を安心して表現できる場を作るという役割があります。ですから、子どもたちが何をして遊んだか、気になるとは思いますが、どうぞそのことは聞き出さないでください。せっかく守られた空間でしている大事な作業が空気漏れを起こして、‘ただの遊び’になってしまいます。

 

その解決策としてですが、当クリニックでは18歳未満の方に遊戯療法やカウンセリングを行う際には必ず保護者の方にも並行で面接を受けていただくことをお願いしています。遊戯療法やカウンセリングで何をしているのか、何か変化は起きているのかと気になられた場合には保護者担当のカウンセラーにお聞きいただければと思います。

 

保護者の面接はお子さんの困りごとや経過について詳しく聞かせていただくためでもありますが、他に大事な理由があります。

 

例えば、遊戯療法を通して、うまく甘えが出せていなかった子がだんだんと変化してわがままを言うようになってきたりします。保護者の方からすれば「前は言うことを聞くいい子だったのに」と取られ、遊戯療法をしたことで悪くなったと止めてしまわれる場合もあるのです。良くなる過程の途中では外から見ると理解しにくいことも起きるため、保護者の方にお子さんに何が起きているのか、お子さんへの理解を深めていただくのと同時に、家庭でどのように関わっていただくことが遊戯療法やカウンセリングの効果をいい方向に進めていけるかということを話し合っていくことが必要となります。子どもへの遊戯療法やカウンセリングと保護者面接の両方を行っていくことで相乗効果が生まれることが狙いです。

 

 

 

当クリニックでのカウンセリングと遊戯療法について本当に簡単ではありますが説明させていただきました。お困りごとを抱えてらっしゃる皆さんの何かしらのヒントや選択肢の一つにしていただければ幸いです。

 

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いかがでしたか。

小野の結びの言葉の通り、今回のご紹介で皆様の選択肢を増やす一助になれば、とても嬉しく思います。