　日本が原油をほぼ完全に近く依存する中東地域で、これから次々と核武装が進んでいくとすれば、これは日本にとって、それこそ「大油断」につながる深刻な事態といえます。核武装が考えられるのは、イラン、イスラエル、サウジ、UAE…トルコもそうです。

　この中で特にイランとイスラエルだけでなく、お互いに中東の覇権をめざすイランとサウジとの間でも、相手がやるならこっちもとの駆け引きが外交の舞台で繰り広げられている現実を知らなければ、中東を論じることはできないでしょう。

　この恐るべき実態について、宇山卓栄氏がエビデンスを示しながら解説してくれました。

　いくら岸田総理が「核廃絶」を唱えても、現実の世界では核武装が広がる一方です。冷戦体制のときは、米ソ両超大国による核保有で成り立っていた「相互確証破壊理論」のもと、その抑止力によって世界の平和が保たれていました。しかし、この体制が崩壊したいまや、核が拡散していく世界への移行で「核の傘」理論も脆くも崩壊し、これからは新たなパラダイムのもとで核抑止力を考えなければ自国の安全とインド太平洋地域の平和は維持できない…宇山氏と対談して改めて感じたことです。

では、日本はどうすべきか。この番組のもう一つの肝が、この点にあります。

何も国内に核を持ち込む必要はなく、いざというときは遠い海洋の深い海底からSLBMによる核報復ができる体制を構築することは考えられるかもしれません。実は、現行法制上も、日本の核保有には制限はなく、国民の意思さえあれば出来ること。

　こう提言する宇山氏は、必ず反対するであろう米国には内緒で日本の核保有を進めてしまうべきだと主張しています。インドもパキスタンも米国の事前承諾抜きに核保有をしているのですから。これによって、両国間では和平が進展。イスラエルの事実上の核保有についても、米国は黙認状態。

　この宇山氏の問題提起を受け止めてどうするか、そろそろリアリズムに立った議論を始めないと、日本国家が存続しなくてもいいのかという話になるのではないかと思います。現に、中国が日本への核攻撃の照準を合わせているのですから。議論の参考にしていただければと思います。

◆『中東の核拡散、アメリカ・サウジアラビア安全保障条約締結か？』ゲスト：著作家　宇山卓栄氏

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■イスラエルとイラン…両国の思惑

イスラエルは、4月13日にイランから無人機やミサイルなどの合計300発以上の攻撃。それにも関わらず、報復はほとんどしなかった。その代わり、ラファ侵攻をアメリカに認めさせる圧力。一方で、イランはこの危機の高まりの中、核武装に踏み込むことの正当性。イランは事実上の核武装をしているが、周辺アラブ諸国に対する、イランへの反発を減ずるための地ならしの環境を整えつつある。

「イスラエルがイランの核施設を攻撃すれば、核武装の選択肢もある」、「イランは核爆弾の製造能力がある」、「今も能力はあるが製造は決定していない」…。

イスラエル側は核施設のあるイラン中部イスファハンを標的にした。イランが核武装をする正当性がある。中東の核拡散を防ぐことはできない。サウジもイランの事実上の核武装について黙っていない。

■サウジアラビアのアメリカへの要求(2023年9月)

サウジはイスラエルとの国交正常化を呑む。その見返りに原子力の民生利用での支援→いつでも軍事利用可能に。ウラン濃縮施設をサウジアラビアに設ける、アメリカとひそかに協議。サウジアラビアは開発資金を提供してきたパキスタンの核を買い上げる。

サウジアラビアとイランは反目。イランが核開発を進めるのは、サウジアラビアの脅威のためであり、イスラエルのためだけではない。

サウジアラビアは2019年、イエメンのフーシの攻撃を受けた。そのため、サウジアラビアも核開発。UAEも原子力発電所をつくりたいとしている。

■アメリカのイラン包囲網

アブラハム合意はイラン包囲網のはじまり。単なるイスラエルとの関係正常化ではない。トランプ政権が2020年、イスラエルとアラブ首長国連邦（UAE）やバーレーンなどアラブ諸国との国交正常化を仲介し、合意が成立。シェール革命で世界最大の産油国となったアメリカにとってのペルシャ湾岸のアラブ産油国（GCC）の重要性は大きく低下。

その一方で、中国の台頭により、アメリカはアジア方面に米軍を振り向け、中東の米軍を削減しようとした。アメリカは、GCCの動揺を抑えるためにGCCとイスラエルの関係正常化を通じて、アブラハム合意へ。

この合意はイスラエルにとって、パレスチナ国家を樹立させることなく、対立関係にあったアラブ諸国との和平を進めたという意味で外交的な勝利。イランを封じ込める「イラン包囲網」を構築。

さらに、アメリカは、イランと長年のライバル関係にあるサウジアラビアと、同じくイランと敵対するイスラエルを結びつけることで包囲網を築こうとした。サウジアラビアはイスラエルとは外交関係を結んでおらず、表向きは対立関係。水面下では対イラン戦略において協力関係にある。イスラエルとイラン、サウジアラビアをめぐる三角関係。

■アメリカ・サウジアラビア安全保障条約

バイデン政権はイスラエルとサウジアラビアとの国交正常化を条件として、アメリカとサウジアラビアの間で安全保障関係の強化や、民間向けの核開発能力の付与などを提示。イスラエルにとっても、サウジアラビアとの国交正常化が実現すれば、イラン包囲網を強化できる。しかし、ハマスによる10/7の攻撃。サウジはアラブを敵に回せなくなった。

ガザで多くのパレスチナ人が死亡する中で、イスラエルと国交を結べば、アラブ社会からの反感を受ける。イスラエルと国交正常化できない。しかし、アメリカと安全保障関係の強化や、民間向けの核開発能力の付与などが欲しい。

サウジアラビアの最大の敵はイラン。イランの脅威に対応するためにはアメリカやイスラエルとの同盟関係が必要。サウジアラビアはイスラエルと国交正常化することなく、アメリカから安全保障の確約を得ることで合意を目指す。それができれば、アラブの盟主としての威信を傷つけることもない。アメリカもイスラエルとの国交正常化を絡めるべきではないと考える。

つまり、これまではアメリカ議会や国内世論を説得するために、イスラエルとサウジアラビアとの国交正常化が前提条件だった。しかし、状況が今や変わりつつある。アメリカはイランの核武装の可能性が高まる中、サウジとの安全保障条約が必要と考える。その場合、原子力の開発も含まれる可能性、核拡散に。

元々、サウジはアメリカともイスラエルとも協調したい。経済最優先。

■トルコ

アックユ原子力発電会社、2023年12月12日、起動許可。建設工事を請け負ったのはロシアの原子力総合企業ロスアトム社。エルドアン大統領「トルコはイスラエルの核問題が忘れ去られることを容認しない」。イスラエルの増長に対する対抗策として原子力を打ち出しているのではないか。

トルコもまた、紛争を自国の利益に結び付けようとしている。中東や周辺国は核武装の準備に事実上、入っている。

■日本の核問題

日本はどうするのか。韓国では核武装の議論が進んでいる、国民の大半は理解を示している。アジアの有事が迫っている。それでも岸田のように、核なき平和な世界などと寝言。

　アメリカはイスラエルの事実上の核保有を黙認してきた。イスラエルの核問題を我々のために応用すべき。アメリカはイスラエルの核を黙認しているならば、我が国にも黙認すべきだと。我が国が核武装をするための機運を上げていく絶好の好機。

ほとんどの日本人が「そんなことできるはずがない」という思考で去勢。実際には、すぐにできる。明日にでもできる。自衛のための核武装に何の法的制約もない。歴代の内閣法制局長官は「自衛のための必要最小限」の範囲において、「憲法は核保有を禁じていない」と答弁。やるかやらないかは時の政権の意志にかかっている。もっと言えば、国民の意志。この点では、韓国人の方が進んでいる。

問題は同盟国のアメリカがどう反応するか。そもそも、核武装はアメリカに秘匿してやるべき。もし、アメリカにお伺いを立てれば、アメリカは反対する可能性。実はトランプとて認めない。だが、イスラエルもインドも事後黙認。

台湾を巡り軍事的緊迫が高まる中、中国はこれまで何度も、日本への核攻撃を示唆。東アジアの情勢は緊迫感を増している。アメリカ議会では、中国が過去最大となる核戦力の増強を進めていると指摘。

安全保障において日本の自立性を高めなければならない。それには、必然的に核武装が含まれる。日本が独自に核武装をして、抑止を機能させなければ、東アジアの平和と安定がかえって損なわれる。インドとパキスタンは双方が核を持った時、和平が進展した。あくまでも、平和のために必要な核武装。

被爆地選出の岸田総理は、核軍縮を「ライフワーク」に掲げている。「被爆地・広島出身の首相として、『核兵器のない世界』に向け、全力を尽くす」まったくの寝言に等しい。

そもそも、この危機が迫っている時に、被爆地選出の政治家を総理にしてはいけなかった。今の岸田政権では、核戦略についての議論すらできない状況になっている。日本が自滅へと向かうのかどうか、岐路に立たされている。

中東で広がる核武装…自国の安全と平和のために日本国民に問われる決断…宇山卓栄氏との対談