精索静脈瘤の有無で精子キャパシテーションの違いは? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、精索静脈瘤の有無で精子受精能獲得(キャパシテーション)に違いがみられることを示しています。

 

F&S Sci 2023; 4: 229(ブラジル)doi: 10.1016/j.xfss.2023.05.001

要約:精索静脈瘤がある男性57名と精索静脈瘤がない男性19名(対照群)の精液所見及び精子受精能獲得(キャパシテーション)について横断研究を行いました。なお、ウシ血清アルブミンを添加したヒト卵管液培地で精子受精能を誘導しました。ベースラインの精液所見には2群間で有意差を認めませんでした。精子キャパシテーション獲得により、両群とも精子の平均速度が有意に増加し、直進性は有意に低下しました(過活性化による精子運動パターンの変化を示す)。 キャパシテーション後は、対照群と比べ精索静脈瘤群で、ミトコンドリア活性の有意な低下キャパシテーションの有意な低下を示しました。 その他の項目では有意差を認めませんでした。

 

解説:精子が受精するためには、受精能獲得(キャパシテーション)と先体反応(アクロソームリアクション)が重要です。精索静脈瘤は、成人男性の15~25%に存在し、治療可能な男性不妊の原因の一つです。精索静脈瘤の男性では、精液所見の低下が認められ、精子DNA損傷(DNA断片化)増加、精子ミトコンドリア活性低下、精子先体反応低下、アポトーシス(細胞死)増加が報告されています。精子キャパシテーションにより、精子は卵子周囲の卵丘細胞を通過し、透明帯に結合できるようになります。キャパシテーションにより生じる変化として、細胞膜の流動性増加、コレステロールの流出、炭酸イオンとカルシウムイオンの流入、細胞内pH上昇、チロシンキナーゼ活性化、過活性化による精子運動パターンの変化、先体反応を挙げることができます。したがって、精子運動パターンの変化、先体反応、リン酸化減少、膜流動性などキャパシテーションの不備は、不妊と関連している可能性があります。精索静脈瘤のある男性は生殖能力が低い精子を生成すると報告されています。これらの患者で精子キャパシテーションに変化が生じているのではないかと考え、本論文の研究が実施されました。キャパシテーション後は、対照群と比べ精索静脈瘤群で、ミトコンドリア活性キャパシテーションの有意な低下を示しています。

 

なお、人工授精では、精子調整を行う過程で受精能獲得(キャパシテーション)を起こしますので、すぐに受精の準備状態ができています(したがって、排卵の時間を合わせた人工授精が最も確率が高い)。一方、射精した精子は子宮内から卵管内でゆっくりと受精能獲得(キャパシテーション)を起こすと考えられています(したがって、排卵日よりも前の性交がよい)。精子調整(遠心分離法、パーコール密度勾配法、スイムアップ法など)が受精能獲得(キャパシテーション)を起こすことについては、1990年代に論文が発表されています。なお、精子調整せずに、精液の原液をそのまま(子宮内あるいは膣内に)入れる場合には受精能獲得(キャパシテーション)は起こりません。

 

下記の記事を参照してください。

2019.7.13「Q&A2256 人工授精の後精子の寿命

2015.2.8「Q&A597 受精能獲得(キャパシテーション)