ペットボトルとエチレングリコール | アメーバブログ「救急一直線 〜Happy保存の法則〜」★ Happy Preservation ★

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テーマ:Through the Light

光と共に

 

(撮影:Image Art Kiyuona

08/14/2025(木)

救急科指導医・救急科専門医

集中治療科専門医 

松田直之 

ペットボトルとエチレングリコール

 

エチレングリコール(HO–CH₂–CH₂–OH)は,吸湿性・低揮発性・低凝固点を持つ多価アルコールなのですが,1)自動車用不凍液(クーラント:冷却系統の凍結防止),2)除氷剤(航空機の滑走路や路面,冷却防止剤),3)工業原料(ペットボトル樹脂,ポリエステル,ウレタンの製造),4)インクや塗料の保湿剤(蒸発防止)などの原料(feedstock)となっています。

 

エチレングリコールの構造

 

このエチレングリコールが工業で利用されているのは,雑貨用のポリ袋やレジ袋,ゴミ袋,製品の包装などです。エチレングリコールは,ポリエチレンPE)とポリエチレンテレフタレートPET)がの原料となります。これは高校の化学の授業で一つの重要な合成化学の知識でした。

 

ポリエチレンテレフタレートは,1941年にイギリスで最初に合成されました。1973年には,アメリカのコカ・コーラ社が,ペットボトルの開発に応用しました。このPETは,エチレングリコールとテレフタル酸の重合体です。このPETをつかったボトルなので,ペットボトルなのです。ワンちゃんや猫ちゃんが遊ぶためのペットボトルではありません。

 

ポリエチレンテレフタレートはこのような液体ボトルに使用されていますし,そのペットボトルに巻きついているファンタとか書いてある貼り付けフィルムも,ポリエチレンテレフタレートが原料となっています。なんと・・,コカ・コーラは,黒っぽいコカ・コーラだけではなく,ファンタも作っていたのです。ファンタスティックです。

引用:コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社

 

先生,焚き火をした海外旅行者の意識レベル低下です。受け入れますか?「はい,私・・断らないので」。でも,先生,英語ですよ。あち・・先生しか先生いませんよ。

OK牧場・・今日もガッツが大切です。なんと・・大量に・・ペットボトルを燃やしたようなのです。

 

ペットボトルで焚き火

 

そんなことが,アルデヒドなのです。ペットボトルを燃やして,実際に問題となるのは不完全燃焼です。具体的には,1)一酸化炭素中毒,2)ベンゼン中毒(テレフタル酸由来),3)ホルムアルデヒド中毒(エチレングリコール由来)です。一酸化炭素中毒の可能性,そしてホルムアルデヒド中毒に注意します。

 

ホルムアルデヒドは,生体内でギ酸となり,代謝性アシドーシスとミトコンドリア障害を誘導します。メタノール中毒で問題となるのも,ホルムアルデヒドとギ酸でした。常識が覆される状況の夏かもしれません。焚き火でペットボトルを燃やすことはお勧めしません。丁寧語では「だめだよ」です。

 

 

 

ペットボトルからホルムアルデヒド

 

ペットボトルの成分には,エチレングリコールが含まれています。しかし,ペットボトルを燃やしても,エチレングリコールの発生自体は少ないことが知られています。

 

これはエチレングリコールのアルキル基(-CH₂-CH₂-)が熱で分解されやすく,厳密にはラジカル化と呼びますが,ラジカル化で不対電子化されて,その後,ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドになるためです。

 

救急一直線「メタノール中毒」の原稿で,メタノールの有害性は,まずホルムアルデヒドに代謝され,その後,生体内でギ酸となることに注意が必要です。そのホルムアルデヒドの気道吸引に注意する必要があります。少量ではありますが・・。そして,気道過敏性亢進作用もあります。私たちの研究室でも,ホルムアルデヒドの管理には極めて注意しています。そして,この状況でやはり一番に気をつけないといけないのは,一酸化炭素中毒です。

 

(撮影:Image Art Kiyuona

 

エチレングリコール犯罪

 

エチレングリコール(HO–CH₂–CH₂–OH)は,無色で甘味があるのでジュースなどと間違いやすい特徴があります。救急科診療では,非常に少ない,あるいは極めて少ない急性薬物中毒です。ポリエチレンテレフタレートの合成などに用いるアルコールです。この中毒を疑うケースとして,犯罪捜査があります。エチレングリコール中毒,急性期にはメタノール中毒と同様に急性腎障害,そして対応が遅いと慢性腎臓病になってしまう危険性があります。

 

ポリエチレンテレフタレートの合成(監修:松田直之)

 

エチレングリコールの生体内代謝と治療

 

エチレングリコールが体の中で代謝されるときには,エタノールと同様にアルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase:ADH)という酵素を利用します。このため,医学生時代に教えて頂く内容として,メタノール中毒やエチレングリコール中毒では,胃管などを用いてエタノールを大量に胃内投与するというものです。エタノールの代謝のためにアルコール脱水素酵素が使わせることによって,メタノールやエチレングリコールからのアルデヒド産生を低下させるためです。

 

このアルコール脱水素酵素は5つのサブタイプがあります。肝臓だけではなく,1)胃粘膜(男性に多い性差あり),2)腎臓,3)肺,4)脳にもあります。脳では,アストロサイト(星状膠細胞)と神経軸索がADH3を発現していることが知られています。まさか脳内で,アルコールが代謝されているとは・・びっくりしたなあもう・・と代わりに感想を述べてみました。

 

アルコールデヒドロゲナーゼのサブタイプと臓器分布(監修:松田直之)

 

肝臓ではADH1ADH2がとエタノール代謝の主体です。肝臓では,肝小葉の中間帯から中心静脈周囲(Zone 3)に多く蓄えられているようであり,Kupffer細胞にはほとんど存在しないようです。また,胃や食道ではADH4がアルコール代謝の主体です。肝臓では,

 

重要代謝経路:エチレングリコール


エチレングリコール→ (アルコール脱水素酵素)→グリコールアルデヒド → (アルデヒド脱水素酵素)→グリコール酸 ギ酸/シュウ酸

 

有毒分子の治療

▢ ギ酸:1)代謝性アシドーシス,2)ミトコンドリア障害

▢ シュウ酸:シュウ酸カルシウム → 急性腎障害

 

以上のような分子は,分子量の低い低分子ですので血液流量 300~500 mL/min レベルの高流量透析での対応としていますが,初期段階ではメタノール中毒で紹介したアルコール脱水素酵素阻害薬である「フォメピゾール」の投与も適応となります。

 

(撮影:Image Art Kiyuona

階段を 歩いて登る 怖くない

 

Why We Should Never Burn PET Bottles

 

August 14, 2025 (Thu)  
Naoyuki Matsuda, MD, PhD

 

There have been instances of foreigners burning PET bottles in Japanese mountains.

In November 2019, YOLO JAPAN conducted a survey on Japanese rules and etiquette , targeting 513 participants from 72 countries. 

YOLO JAPAN survey

 

The study found that among foreign visitors, “how to dispose of garbage” was the most common challenge due to unfamiliarity with Japanese customs.

Representative comments included:

  • “I didn’t know that municipalities have designated garbage bags.” (Australia, 40s)
  • “I couldn’t tell the difference between burnable and non-burnable trash.” (Malaysia, 20s)
  • “Sorting garbage seems troublesome. In China, we don’t separate trash.” (China, 20s)
  • “Trash separation in Japan is strict. It would be fine just to separate burnable waste and bottles.” (Spain, 30s)
  • “Even though Hong Kong has some waste separation, it’s not as thorough as in Japan. Japanese garbage sorting is very detailed.” (Hong Kong, late 20s)

Understanding the scientific and medical reasons behind why PET bottles must not be burned is important.

 

PET bottles are made of polyethylene terephthalate (PET), a polymer of ethylene glycol and terephthalic acid. Incomplete combustion of PET can release several hazardous substances:

  1. Carbon monoxide (CO)
  2. Benzene (from terephthalic acid)
  3. Formaldehyde (from ethylene glycol)

These compounds can lead to serious health risks. For example, carbon monoxide is metabolized into formic acid in the body, which can cause metabolic acidosis and mitochondrial dysfunction.

 

As many people enjoy hiking and visiting Japan’s mountains, it is crucial to refrain from burning PET bottles. Please help keep the environment safe and protect your health.