今、学ぶべきビジネスモデル としての 〈創造的破壊〉明治維新
1、よみがえる明治維新の意義:創造的破壊
今日の日本を取り巻く政治や経済の環境は、まことに厳しいものがあります。
この現状をいかにして再び活性化させ繁栄を取り戻すか考えるとき、私は明治維新の成功を思い起こし、その意義を検討することが有効ではないかと考えています。
明治維新政府による国家機構の大改革、四民平等の政策、そして富国強兵政策の成功は、当時の国際社会が広く認めたものです。
明治維新後わずか半世紀後には、日本は国際連盟という当時もっとも権威と力を持っていた国際機関において5カ国しかない常任理事国の一つとして活躍していました。
このことは、明治維新に始まる近代日本がいかに成功していたかを証明しています。
東アジアでは、多くの国で列強の植民地支配が行われた中、日本とタイだけが独立国家として国際社会に参加していたのです。
では、なぜ日本は列強のそうした支配を受けなかったのでしょうか。
これには様々な議論があります。
一ついわれるのは、すでに江戸時代において、日本は戦う集団であった武士により構成された江戸幕府が統治する、識字率のとても高い文明国であったということです。
しかし、私は、日本が植民地化されなかった最大の理由は、明治政府が江戸時代の体制から想像を超えた近代化を短期間に成し遂げた点にあるのではないかと考えています。
なぜかくも短期間でこのような創造的破壊が日本で可能だったのでしょうか。その答えは、日本の国家としての本質の中にあります。
2、創造的破壊とは
創造的破壊とは、19世紀後半のオーストリア・ハンガリー帝国に生まれた高名な経済学者ヨーゼフ・アーロイス・シュンペーター教授が広く唱えたことで有名になった言葉です。
シュンペーターは、新たな商品、新しい発想、新たな市場、新しい産業組織の創生といったことが資本主義社会の核心であり、60年、70年という長期にわたって事業生命を維持した会社では、既存の構造を自ら打ち破り内部から変革してそうした新たなものに置き換え続けていることを指摘しました。
この創造的破壊の一例として、ある総合電機メーカーの事業部間の関係があげられます。この企業の冷蔵庫事業部は、それまでコンプレッサーが必要な時は社内他部門であるコンプレッサー事業部から調達してきました。それが、それまで社内ルールとして当然に行われていたのです。
しかし、ある時からそうした従来の手法を「創造的に」破壊し、冷蔵庫事業部がコンプレッサー調達を検討する時には、他社製品も含めて比較検討した上で、冷蔵庫事業部として利益を最大化できて最も性能の良い冷蔵庫を作るのに最適なコンプレッサーを選ぶこととし、自社のコンプレッサー事業部から買わないことを含めて選択肢を広げました。
こうした取組みは、結果としてその会社の体質を強化します。
シュンペーター教授が広く明らかにした通り、こうした大胆な創造的破壊を成し得ない企業は滅びていくのです。
こうした事は、企業だけでなく国家にも当てはまります。
社会が発展しそれを取り巻く環境が変化する時、その新しい環境に対応した創造的破壊を自ら行わない国家はその活力を失います。それは、創造的破壊をしない企業と同じです。
日本の明治維新の大変革は、国家における創造的破壊の典型的な一例です。
シュンペーター教授がもし問われたならば、彼もまた明治維新に対してそのような評価を行
うことでしょう。