久々にフルートの試奏に出かけた。


試奏と言ってもフルート本体ではなく、
「頭部管」だ。

愛機であるマテキフルートは、この二十数年間、常に自分と苦楽を共にしたパートナーである。
音楽とは関係ない部分も含めて、こいつの存在に幾度となく助けられた事もあり、単に楽器の良し悪しとかグレートの優劣だけでは語れない愛着があるだけに、他の楽器と引き換えに売る事は、一度も考えた事がない。

しかし…である。

この楽器、良い意味では楽器が自分の成熟度に比例して応えてくれる部分があるのだけど、逆に言えば練習が疎かだと、それがそのまま反映されてしまいやすいのが難点だ。

当然そこがこの楽器の一つの美点であることは間違いないが、加齢による体の変化や、練習頻度の低下など、アマチュア奏者のコンディション維持には色々悩みも多い。
私の様な子育て中のサラリーマンだと、自分の趣味にかけられる時間も資金も、それ程自由にはならないのだから尚更だ。

他にも温度での鳴りの差が大きいことがあり、冬場は勿論、夏でも出待ちの間に楽器が冷えてしまったあと舞台に乗った瞬間の一発目などは妙に緊張してしまう。
(響かないホールで自分の楽器の響きまで感じられなくなる時の何と心許ないことか…)

常に練習と本番を繰り返していた若かりし頃ならまだしも、このところ舞台に乗る機会自体が滅多にないからこそ、こう言う事象が一層気になってしまう。

だから、少しでもこの辺りの安定性を高め、その日のコンディションに余り大きく左右され過ぎないで吹く事のできる方法はないものか…と。
しかし前述の様に楽器を買い換える事はしたくないし、かと言って今以上のクラスを買い足すのは現状では厳しい…
となれば、せめてもう少し柔軟性のある頭部管はどうか?
こんな時モノに頼ると言うのは実に邪な考えだとは承知しながら、この際「続けて行く事」が一番大事だ。

そんな事で、パウエルの代理店でもある大阪の某有名店を訪問させていただいた。
実はもう十年近く前、このお店で吹かせてもらったオーラマイトの頭部管が、自分の楽器となかなか相性が良かったので、その事を再度確かめる意味でも良い機会だった。
(その時は、独身の勢いで中古のブランネンを購入してしまった)

念のため事前確認の電話をしたところ、どうもフルートフェア&調整会期間中と言うことらしく試奏室は使えないとの事だったが、頭部管の在庫は少しあるらしかったので早速伺った。

対応して頂いたフルート経験者だという丁寧な男性店員さんに事の次第を説明し、幾つか頭部管を並べて頂いた。
基本的にシルバーを希望していたのだが、オーラマイト含めその殆どが私のマテキには径が合わず(マテキが細い)、入ったのはシルバーでは一本だけ。
あとはゴールドばかりだったが、其々のタイプの参考までに吹かせて貰った。

唯一入ったシルバーの頭部管は、私は聞いた事のないメーカーだったけれども、なかなか綺麗に鳴り全域でクセの無いすっきりとした印象だった。
(担当氏はこれがお勧めとのこと)
しかしその綺麗に鳴るポイントを絞るのが若干難しく、求めたものとは少し違っていた。
しかし、当然私とは反対の事例、要はある程度楽になる鳴る頭部管からのステップアップ、或いは音色の向上が目的だと、これが良いとなるはずだ。

続いてヘインズ、パウエルの
それぞれ14k、19.5k素材のもの。

ヘインズは、Pタイプ(?)
良くも悪くもドーンと鳴る感じで、とても力強く男性的な音。笛吹き的にはこの吹き応えはとても気持ちいいのだが、他の楽器との調和を考えると個人的にはもう少し節度ある感じが好きではある。

そしてパウエル。
タイプは確かフィルハーモニーと説明されていたと思うが、こちらはヘインズほどの野太さはないにせよ、やはりかなり息が入るタイプ。
しかしレスポンスは良く、pからfまでコントロールし易くニュアンスも付けやすい上、3オクターブの発音が緊張せず綺麗に決まるのは助かる。

どちらもゴールドの割にそれ程吹きにくさは感じなかったし、寧ろ少ないパワーが最大限音に変換されているとすら感じられ容易く音量を出せてしまうために、どうにもボディ側が負けてしまって頭部管だけがやたらに鳴ってる感が否めない。
(そもそもゴールドは対象にしていないのだけど)

そこで店員さんが、何故か私に1970年代製だというエイトキンスと言うオールドの楽器を持ってきてくれた。近年の楽器と比べると遥かに小さい唄口で、上下の加工も殆どされていない様だった。
しかしこれがツボに入ると何とも柔らかな音色を奏で、近距離の音量はないものの、きちんと音は飛んでいる感じがする良い楽器だった。
後輩が吹いていたアキヤマのフルートにもどことなく特性の似ているもので、2本目の趣味としてなら欲しいなと思った。

「上品な音を求められるなら、頭部管と似たような価格でこういう選択肢もありますよ」
とのこと。

なるほどその通りで、その独特のしなやかで上品な音色は優雅ですらあった。
室内楽や古典向きだろうか。

しかし、今回私が求めているのはコンチェルトからオーケストラ、吹奏楽まである程度満遍なく使えるものであり、今の段階で何処かのシチュエーションに特化したものは考えていない。
当然コレクターでもないので、残念ながら今回は候補とはならなかった。

そして、最後に出てきたのがパウエルのフィジョーネと言うタイプ。担当氏曰く、最近は後発のソロイストに人気が移行して新品中古とも本数が減っているらしいのだが、これがなかなかどうして悪くないのだ。

残念ながらこれもマテキには入り切らず、少しだけ刺さった状態で吹いてみたのだが、当然のことながらピッチも吹奏感も違い過ぎて正当な評価ができないため、パウエルの本体で私と同じドゥローンのモデルにフィルハーモニーとフィジョーネを順番に付けて試してみる。

うん、やはりフィジョーネが私には合う様だ。

本体自体の共鳴具合は私の楽器の比ではないが、それでも先程めちゃくちゃなピッチで吹いた自分の楽器との吹き心地にそれ程乖離がない事に驚く。
音の繋がりもとても滑らかで、レガートが綺麗に決まる故、練習もさほどしていないくせに、なんだか上手になった気分だ。(一応前日に1時間余り練習室に篭り感覚を付けてはおいたのだが…)

正直なところ、マニア受けするものでも無いだろうし、音色系、音量系どちらかに振ったものでも無いけれど、現状の頭部管に比べて遥かに緊張感が和らぐ印象。
3オクターブは顕著に楽だし、吹き易いからといってヒステリックなキンキンした感じもない。
1、2オクターブも膨よかで程よく密度のある音色で、粒だった感じではないがある種の品を感じさせる。
音の傾向はどちらかといえばまろやかなので、ガンガン鳴る訳ではないのだが、それでも音量もはっきりとこちらが優っていた。
吹き易さとフルートらしい音色とのバランスが良いのだ。

加えて、当日は30度くらいまで気温が上がった事もあり、店内はしっかりと空調が効いていたお陰で、暫く放置して冷え切った管も試すチャンスがあったが、鳴りの違いを余り気にせず吹けた。
が、直後に同条件で放置した自分の頭部管では、やはりなかなか楽器が響いてこないというピーキーさが現れた。(唇の下だけ鳴ってる感覚と言えば近いか)

これらは個人との相性なので、誰でも同じ結果とは言えないのだけれど、私としては自分の吹きたい音が安定して吹けそうな、そんな予感がする頭部管だった。

取り敢えず本日の収穫は十分に得られたところで、一旦検討する旨を伝えて退散する事にした。

はて、頭部管を新調するか、自分を磨くか…
昔なら即答で後者だったろう。
楽して良い音造りができるとは毛頭思っていないのだが、現状、その為に毎日鍛錬するのは難しいのが実情だ。

いや待てよ。
その前に楽器をきちんと調整した方が良いのではないか?
思えば、子供が生まれたとほぼ同時にクローゼットにしまい込んで暫く放置された愛機を、先ずはきちんと手入れしてからもう一度向き合ってみた上で再考すべきなのかも知れない…

と、改めてそう思い直しつつもある。