まとめサイトはどれも面白いのですが、個人的にはNAVER(ネイバー)が好きです。

コピペサイトじゃないかと言う人もいますが、まあ情報空間というか、ネットでコピペではないものなど無いですし少ないですし、DNAから宇宙まで世界はコピペであふれています(コピペというのは、Copy & Pasteです。引き写しですね)。神の言葉(Evangelion)もQ資料のコピペです。
完璧な絶望がないように、完璧なコピペがないので(不確定性原理でも不完全性定理でも)世界はオリジナリティに満ち溢れています。自発的に対称性も破れます。

まあ、まとめサイトは圧縮されているので便利なのです。
われわれは情報処理システムなので、圧縮された情報のほうが(解凍できる限りにおいて)助かるのです。栄養豊富なほうが、水でとことん薄められたものよりも助かるのと同じです。以前も書いたように、たとえばうなぎを栄養としたいのに、香りだけかがされ続けると中毒になります。すべての情報はCMの後にと言われ続けるようなものです。

ですので、圧縮は非常に助かります。
というわけで、NAVERではなくWikipediaです。
Wikipediaも良いまとめサイトです。

Wikipediaの数学的なジョークのシリーズはこの1ページだけで、数時間セミナーできそうなくらいに楽しいです。
数学を学ぶ上で、大事なことは、数学をするときの手触りや世界観を自分のものにすることです。

で、数学的なジョークから前回紹介したのは、こちら。

(引用開始)
天文学者、物理学者、そして数学者がスコットランドを走る列車に乗っている。

天文学者は窓の外を眺め、一頭の黒い羊が牧場に立っているのを見て、「なんと奇妙な。スコットランドの羊はみんな黒いのか」と言った。

すると物理学者はそれに答えて「だから君たち天文学者はいいかげんだと馬鹿にされるんだ。正しくは『スコットランドには黒い羊が少なくとも一頭いる』だろう」と言う。

しかし最後に数学者は「だから君たち物理学者はいいかげんだと馬鹿にされるんだ。正しくは『スコットランドに少なくとも一頭、少なくとも片側が黒く見える羊がいる』だ」と言った。

(引用終了)

天文学者と物理学者と数学者の世界観の違いをあまりに端的に示しています。
面白いです。

今日はもう1つ。

(引用開始)
ある数学者とその親友である技術者は13次元空間の幾何学に関する公開講義に参加した。講義の後で「13次元はどうだったかね」と数学者が訊ねると、技術者は「ああなんだか眩暈がしてきちゃったよ」と告白し、「君は13次元空間をどうやって理解するんだい」と聞き返した。数学者は「ああ、それは簡単。まず n-次元空間で一般論を作って、n に 13 を代入すればいいんだよ」と答えた。
(引用終了)

ジョークは説明してしまっては面白くありませんが、技術者と数学者の世界観の違いが端的に示されています。
まず一般化するというのが数学者の数学者たるゆえんです。

このジョークはノイマンの「量子力学の数学的基礎」を思わせます。


*フォン・ノイマンの顔を見ると、いつも武術の先生の顔を思い出します。

ノイマンの「量子力学の数学的基礎」はバイブルと言っても良いのですが、その中身は難解です。

「ハイゼンベルクの顕微鏡」から当該部分の解説を利用しながら、全貌を軽く見てみましょう。

まず、ノイマンは師匠の名を冠した「ヒルベルト空間」なるものを導入します。そのヒルベルト空間の中で働く演算子(作用素)の性質を数学的に解明しました。


*ヒルベルトです。現代数学の父とも言われますが、それ以上に偉大であったことに最近ようやく気付きました。「我々は知らねばならない、我々は知るだろう」が有名ですが、「物理学は物理学者には難しすぎる」も記憶したい言葉です。決してゲーデルの先触れではないのです。


ヒルベルト空間とは端的に言えば、ユークリッド空間の概念の一般化です。ジョークの中の「まず n-次元空間で一般論」と同様です。
ヒルベルト空間という無限次元のベクトル空間を考えると、平面は2次元のベクトル空間であり、われわれが認識する空間は縦横高さの3次元のベクトル空間で表せるということになります。

で、ここで演算子というのは、写像と考えます。行列をベクトルに掛けると別なベクトルができますが、これは行列という演算子がベクトルに作用し、その結果として別のベクトルに移動させたということになります。写像です。写像とは空間の中での移動ということでした。



すなわち、ヒルベルト空間で働く演算子(作用素)は、同じくヒルベルトに属するベクトルを他のベクトルに移すということです。

「簡単にまとめると、1つの量子系に1つヒルベルト空間が対応し、系の状態はそのヒルベルト空間で定義されるベクトルが表す。これがシュレディンガーの波動関数に対応する。そして、位置や運動量という物質量には演算子が対応する。古典力学では、粒子の状態を三次元ユークリッド空間(我々が生きている世界)における位置ベクトルや速度ベクトルで表していた。ヒルベルト空間は、量子力学において同様の役割を果たす。ただし、ヒルベルト空間のベクトル(波動関数)は、ユークリッド空間のような人間の感覚に合う具体的なイメージにはならない。」(ハイゼンベルクの顕微鏡 pp.129-130)

一般化がここでは威力を発揮しています。

アマゾンのサイトでも紹介されている湯川秀樹博士による見事なまとめを読むと一層明確になると思います。


科学史の理解というのは科学を理解する助けになることが、多いのですが、歴史を無味乾燥な事実の羅列にしないためにも、人物は名前と画像をセットにすることがポイントになります。脳は画像に反応し、特に人の顔に強く反応するので。

(引用開始)
1925、6年頃にde Broglie及びSchrodingerの波動力学とHeisenberg等の量子力学とが殆ど同時にでき上がり、それらの見かけ上の大きな違いにも拘わらず形式的に同等であることが明らかになった。
そしてBohrに始まる量子力学の統計的解釈が、1927、8年頃にはHeisenbergの不確定性原理やBohrの相補性の考えが根幹となって一応物理学者にとって満足すべき理論体系ができ上がった。
しかし、それはまだ数学者を満足させる程まで理論的な厳密さをもって築き上げられた体系ではなかった。
特にDiracのデルタ函数を使う方法は、物理的な直観によって本質的に正しいことが分かってみても、数学的にはそのまま受け入れにくかった。 
このような不満足な状態を是正するために、Neumannはそれまで物理学者には縁の遠かったHilbert空間の理論を基礎におくことによって、理論的に一貫し、数学者にも受け入れられる形に量子力学を再構成することに成功した。
今日では、量子力学系に対する直感的な像を描くためにも、Hilbert空間はなくてはならぬ背景にさえなってしまった。
それはNewton力学の背景である三次元Euclid空間や、Einsteinの相対論の背景である四次元空間にも比すべきものである。
しかし、Hilbert空間が通常の三次元ないし四次元空間と本質的に違うのは、それが量子力学系に対する観測と直接結びついている点である。
実際Neumannは本書において、量子力学の数学的な基礎をあきらかにしたばかりではなく、観測の問題の精密な分析をも行い、更に進んで量子統計力学の再構成までも試みた。 
それ等いろいろな理由によって、本書は歴史的に重要な意義を持っているばかりでなく、今日でも理論物理学を学ぶものが一度は熟読しなければならない書物である。
(湯川秀樹)

(引用終了)

この文章に、何を付け加えて書いても蛇足ですが、
Neumannはそれまで物理学者には縁の遠かったHilbert空間の理論を基礎におくことによって、理論的に一貫し、数学者にも受け入れられる形に量子力学を再構成することに成功した。
という箇所は、なぜ数学のヒルベルト空間を物理学に持ち込んだかの説明になっています。

そう考えると、アリストテレス、ニュートン、カントまでがユークリッド空間であり、アインシュタインから非ユークリッド空間(リーマン幾何学)となり、量子力学からヒルベルト空間になったという俯瞰図が見えてきます。

ユークリッド空間 ⇒ リーマン空間 ⇒ ヒルベルト空間 

ということです。

この観点から再びファインマンの経路積分を考えると、よりすっきりするのではないでしょうか?
ファインマンの量子電磁力学は、確率振幅をすべて足しあわせた上で、自乗すると確率が生じます。ファインマンダイアグラムへ移行する前は、ストップウォッチの矢印をすべて足しあわせていました。矢印とはベクトルです。反射を考える時すべての面が同じ確率で到達すると考えるために矢印の長さは等しいので。

そして、リスキーながらぼんやりとクリプキ様の様相論理学の完全性のための可能世界意味論を思い出すのも面白いかと思います(我々が学んだ限りでは、可能世界は独立で干渉しないというのが制約としてあると考えて)。

まあ、いろいろなことをきちんと1つ1つを学びながら、ぼんやりと重ねていくと強固なネットワークができてくると思います。


【書籍紹介】
僕もまだ積ん読です。

 



こちらは今月の寺子屋「不確定性原理」の前に一読することをお薦めします。