もう死んでもいいと思いながら

私は何故毎日納豆を食べるのだろう


いつ死んでもいいと思いながら

私は何故毎日もずくを食べるのだろう


早く逝きたいと願いながらも

サプリメントを欠かさない


矛盾した想い

自分の愚かさ

自分の浅はかさ

肺癌になり
死にかけたのに
生きる事への執着と未練を
棄てきれない

Nを死なせて
罪悪感に苛まれながらも
この世を捨てる決心がつかない


「味覚が戻って欲しい
水炊きが食べたい
旨い酒が呑みたい」


最後に遺した父のメモ書きが
頭を離れない


あんなに嫌った父なのに

ささやかな年金で慎ましく

爪に火を灯す様に暮らしながら

懸命に癌と闘い死と向き合った
父の姿が

今はただ哀れでならない



あの日から私は毎日酒を呑む

まるで父の望みを叶えるように

酒量はだんだん増えていく


夫の様に脳溢血で
苦しむ事もなく
呆気なく死ぬ事も

Nの様に心の病いに苦しみながら
ある日ためらいもなく
自死する事も

母や父の様に癌で
長い治療と痛みと死の恐怖に
怯えながら逝く事も

死は怖い

死は残酷だ


この世に生まれたその時から
必ず訪れる宿命なのに

「死」のその先の世界を
誰も知らないから
怖れおののく


私はこの人生で
あまりにも沢山のものを喪った

喪くしたものは
これから手にいれる事も
取り戻す事ももう出来ない


今はただ

生と死のはざまで

うろうろとさ迷いながら

酒を呑み眠れぬ夜を重ね

自分なりに納得のいく
生き方、或いは死に方を
探している


愚かな
哀れな
孤独な
そして滑稽な老人だ


笑って欲しい

蔑んで欲しい

それが私の慰め

それが私の身勝手な望み

それが私の贖罪

この世の塵よりもちっぽけな
存在にすぎない私なのだから

恐れる事も
怯む事も
もうやめよう

願いはひとつ
Nに
遇いたい……