🌸 芥川龍之介と三島由紀夫の対話
――『源氏物語』をめぐって
芥川龍之介(静かに語り出す) 「『源氏物語』には、制度の影が濃く差しています。帝の血を引きながら、制度に居場所を持たぬ光源氏。彼の恋は、制度の外でしか咲かぬ花のようです。」
三島由紀夫(鋭く応じて) 「だが、先生。私はむしろ、あの物語に“制度の美”を見ます。身分、儀礼、四季、装束――すべてが制度化された“美の体系”だ。源氏はその中で、死と愛を演じる“制度詩官”なのです。」
芥川(目を伏せて) 「制度の美――それは確かにある。けれど私は、紫の上の死に際して、制度が何も語らなかったことを忘れられません。あの沈黙こそ、制度の限界であり、詩の始まりです。」
三島(静かに頷き) 「だからこそ、私は“跳躍”を語る。源氏が制度の中で美を極め、やがてその制度に倦み、宇治へと向かう――あれは制度からの跳躍であり、死への予感だ。」
芥川 「宇治十帖は、制度の余白に咲いた詩です。薫や匂宮の物語は、もはや制度に従っていない。語られぬ声、届かぬ想い――それは“倫理の裂け目”に咲く花のようです。」
三島 「ならば、我々が問うべきは、“源氏物語とは制度詩国家の夢か、あるいはその廃墟か”ということだ。」
芥川(微笑して) 「あるいはその“余白”かもしれませんね。」