翌日誠が、昨日と同様、花園の悪ガキたちを脅したり、服従させたりしていた時、砂土谷一味が弘を後部の座席に乗せてオートバイでやって来る。砂土谷は誠に、のんべえ小路で誠の泣き所である女を突き止めたと宣言する。誠は動揺し、岩清水弘は、早乙女愛に真心を寄せられながらも、別の女をつくっていたことで誠を非難する。弘としては、誠が愛にとって大切な人間と思えばこそ、誠をかばって拷問に耐え抜いたのだった。たまたま登校して、校門の陰に隠れてやりとりを聞いていた愛にとっても、誠に別の女がいることはショックだった。砂土谷は誠に爆弾を渡せと迫るが、誠は応じず、爆弾を爆発させようとする。彼の気迫に押されて、砂土谷たちは引き上げていく。弘は愛の前で、誠にのんべえ小路の女について釈明するよう要求するが、誠はそのことについて二度と軽々しく口にするなと一喝してその場を去る。
愛はのんべえ小路を訪れて、問題の女性を突き止めようとする。たまたま或るスナックで、アリスという名の混血の美少女が、マスターにからかわれて、額に三日月傷があるあの男なんか大嫌いだと言っている場面に遭遇する。

これが例の女性なのだろうか。誠は彼女に振られて涙を流したのだろうか。ぐらりとする彼女を、後ろから弘が支える。彼も真相と突き止めるため、ここへやって来たのだ。アリスの話だと、誠の涙の一件とぴたりと符合するが、二人とも納得がいかない。マスターは自分のスナックでいっぱいやっていくように二人を誘う。愛にとっては、誠との血みどろの長い年月をこうもたやすく引き替えられていいものか、納得できない。また彼女から見れば、太賀誠がそれほど安っぽく薄っぺらな人間とは信じられない。弘も同感だった。彼は太賀誠を好きではないが、失恋してめそめそ泣くような男とも信じられない。さらに弘に言わせれば、太賀誠は恋なんかしない男だ。

スナックのドアはマジック・ミラーになっていて、外からは内部は見えないが、内側からは外の有様がよく見えるようになっていた。二人は、毎晩誠が座るという席に腰掛け、外の様子をうかがう。向かいのおでん屋で、中年の女将が客と戯れている。マスターは彼女が救いようのない酒乱で、名前を大賀トヨというのだと告げる。愛と弘は衝撃を受ける。向かいの店の女将こそ、幼い誠を捨てて蒸発した母親だったのだ。誠は毎晩自分の母親が客たちと酔態を演じている姿を眺めては、涙を流していたのだ。砂土谷たちは、アリスを誠の恋した女だと誤解して、彼女を襲うだろう。アリスは、本当は誠が好きなのに彼が相手にしてくれなかったので、その夜はやけ酒を飲み、ダンスホールに行く。愛と弘は彼女を追うが、彼女は緋桜団に拉致されてしまう。

緋桜団のアジトでアリスは宙づりにされ、砂土谷はその悲鳴を電話で誠に聞かせる。

「ヒイイイイ〜ッ‼︎」若い娘の悲鳴が、そのまま誠と砂土谷の最終決戦のゴングになった。誠は、砂土谷たちがのんべえ小路の女をアリスだと誤解したのだと悟る。誠は、人質が自分の母親でなかったことに内心安堵する。砂土谷たちはアリスを全ストにしようと、ズボンを下ろし始める。「やめてえ〜っ‼︎ いっそひと思いにころしてえ〜っ‼︎」電話口で悲鳴を聞いた誠が激昂して「やめろおっ‼︎」と叫ぶと緋桜団の手がピタリと止む。誠はこうして、砂土谷の呼び出しに応ずる。
のんべえ小路では、愛と弘が見守る前で、泥酔した誠の母親が客におでんの汁を鍋ごとぶっかけ、大トラになっていた。地面に横たわって啖呵を切る彼女を誠が後ろから抱き起こし、「さよなら、おふくろ」と言うのを、愛と弘は聞く。誠は死ぬ気なのだ。弘は警察に行き、愛は誠の後を追う。
誠は花園実業高校の深夜の校庭に来た。後を追ってきた愛には、なぜ誠がこれまで自分が寄せる心に対して、どこまでも冷淡だったか、わかったような気がした。彼はずっと以前から、ひょっとすると花園に転校してきた頃から、のんべえ小路にいる母親の存在に気がついていたかもしれない。もしそうなら、とても愛の存在どころではなかったはずである。もしそうだとすれば、彼の涙で全てを許してあげられる!……… 彼女がそんな思いに耽っているうちに、砂土谷と緋桜団がオートバイで現れる。彼らは、誠に対してアリスを解放する。その代わり誠も爆弾を持参していないことを、砂土谷は部下に身体検査をさせて確認する。これから誠と砂土谷の二人でサシの勝負をしようというのだ。誠が自分を助けに来てくれたと誤解してぬかよろこびに浸るアリス。

一方、陰で見守っていた愛は、誠が母親の姿にヤケになり、アリスを口実に命を捨てると決めたのだと悟り、警察に知らせようとするが、緋桜団の一味に捕まってしまう。
誠と砂土谷の一対一の決闘が始まった。普通の相手ならば、鞭の一撃だけでも狂い泣くはずなのに、砂土谷がどんなに誠を鞭打っても、誠は屈せずに向かっていった。砂土谷たちは、誠には神経がないのか、痛みってものを感じないのかと疑う。鞭だけでは誠を倒せない砂土谷は、ナイフを取り出す。誠は痛みなど感じなかった。痛いとか痒いとかとジタバタするのは、生きたいから、我が身が可愛いからのことである。誠は死にたいのだった。冷血非情の砂土谷峻さえをも畏怖させ、その必殺の鞭に頼り切れず、ナイフまで取り出させたのは、まがい物でない誠の必死必殺の気迫であった。鞭を誠の手に絡ませ、引き寄せてからナイフで刺そうという砂土谷の身体は、その反動を利用した誠の投げに空中高く投げ飛ばされる。地面に刺さったナイフを拾おうとする砂土谷の腕を、誠は力一杯踏みつける。その弾みで砂土谷の右手の親指は、ナイフの刃に切り落とされる。親指をなくし、鞭を使えない砂土谷は、でくの坊同然だった。だが死力を尽くした誠も倒れる。緋桜団は動けない誠にリンチを加え、ナイフでとどめを刺そうとする。誠の表情には、あの母から解放される安息の安らぎがあった。彼は小声でさよならと言う。その時、誠を呼ぶ愛の叫び声が聞こえる。誠には生への意志が甦る。緋桜団の残党たちは、愛が自ら裸になれば、誠の命を少しでも生きながらえさせると愛に要求する。愛はそれを承知する。むしろ当然のように承諾の言葉を言ってのけた。そしてその刹那、この生き地獄の底で、彼女は自分の中に見極めたと思った。いかに傷つき汚れようと、より真実の強さや光が増す<愛>を。
誠は愛を巻き添えに死なせたくないのだとわめく。緋桜団の全員をこの際地獄への道連れにしてやるつもりで、時限爆弾を仕掛けてあり、殺傷範囲は四百メートル、早く取り除かないと予定外の早乙女愛を殺してしまうことになると宣言する。残党たちはシィーンとなる。砂土谷との決闘で、誠は最初から命を捨ててかかっていた。死にたがっていた事実があった。それだけに今の誠の態度の一変には、疑いを許さぬ迫真力があった。そうなると自分たちの腕時計のかすかな音すら、一同の耳には不気味な時限爆弾が爆発への秒を刻む音に聞こえた。一同は算を乱して、一斉に逃げ出した。
誠は起き上がると、後ろ手に縛られていた愛の縄を解き、水道の蛇口から水を飲む。そして爆弾など最初からインチキで、子供のおもちゃのプラスチック・ボールに目覚まし時計を入れ、黒く塗っただけのいかさまだと、こともなげに言ってのける。愛に対しては、よくよくお節介なお嬢さんであり、愛お嬢さんの全ストとあっては、未練が残って死ぬに死ねないと皮肉な口調で語る。あまりの言い方に愛は気を失い、誠は彼女を抱き上げて自宅まで運んで行く。アリスは自分の敗北を認め、二人を見送る。誠に抱き上げられながら、愛はごくかすかに意識していた。誠の腕の中でさざ波に漂う小舟のように揺れている自分を。そこには身の溶けていくような安らぎがあり、幸福があった。