Ciao!!
今回はイタリアの Toscana 州にある、Suvereto (スヴェレート) という村にやってきました!!
ここは「イタリアの最も美しい村」に選ばれた、中世の面影を色濃く残す小さな村です。村の名前はコルク樫(sugero)の森があることに由来しています。地中海性の温暖な気候を利用して、オリーブやブドウも盛んに栽培されています。
ピサの斜塔で有名なPisa から電車で一時間半かけてCampiglia Marittima 駅まで行き、そこからバスで20分ほどで着きます。しかし、バスは数時間に一本とめちゃくちゃアクセスが悪いので、車で行くことを強く強くお勧めします。
今回は、村の中心部から少し離れた場所にあるBulichella Winery (ブリケッラ・ワイナリー)というワイナリーで三泊四日することにしました。
ワイナリーって泊まれるの?!となる方もいらっしゃるかもしれないですが、イタリアには "Agriturismo" という文化(?)があります。農園や農家さんの経営する宿泊施設に滞在し、そこで採れた野菜やオリーブオイル、ワインを楽しむことができるという、現地の生活や食文化をこれでもかというほど体験できる贅沢な観光スタイルです。
大好きな Bulichella の自然です。
よくイノシシが出るらしく、ここSuvereto はイタリアの中でも珍しくイノシシを食べる場所です。
Pappardelle al Chinghiale (パッパルデッレ・アル・チンギアーレ)は、この地域以外ではあまりお目にかからない郷土料理です。Pappardelle というフェットチーネよりも幅広でもちもちしたパスタを、濃厚なイノシシのラグーソースに絡めて食べるという...最後の晩餐の一皿が決まりました。
本当はSuvereto のワインと一緒に頂くべきだったのでしょうが、この後にワイナリー巡りを控えているためここはセーブしておこうと思いました。今は激烈後悔しています。
さて、いよいよワインの話に移っていきましょう!
一軒目は宿泊しているBulichella winery です。
まず、ここのワイナリーを語る上で外せないのが日本との密接な関係です。
Bulichella の歴史は、1983年に四つの家族が共同生活と自然を尊重した農業を目指して農園を設立したところから始まります。そのうちの一人が日本人の宮川秀之さんという方で、初代フォルクスワーゲン・ゴルフなどのデザインを手がけたイタルデザインの創設者の一人です。Bulichella 農園は、当時はまだ珍しい完全有機農業をいち早く取り入れました。さらに、学校生活や社会生活にうまく適応できなかった子供たちを引き受け、共同生活や農業を通じた社会復帰支援などの取り組みも行っていました。
その後、1999年に宮川夫妻が農園の全権を買い取り、単独所有のワイナリーへと移行しました。宮川一家の単独所有となってからも「社会貢献・社会的責任」の精神は受け継がれており、今でも地域社会や困っている人々を支援する慈善活動を行っています。
次に、テロワール(土壌、気候、地形、自然環境など、その土地の持つ固有の環境特性のこと)についてです。
テロワールはワインの味や香りに非常に大きな影響を与えます。(テロワールがワインに与える影響については、アルザス編でよりたくさんお伝えできると思います。)ワインの味や香りすべてがテロワールによって決まるわけではないですが、同じ品種でも土地や年(つまりその年の気候)が違うと本当に全然違うワインができたりします。これだからワインはやめられないのです...
Bulichella の宿泊施設の真正面に広がるのが、Bulichella のブドウ畑(右側)とオリーブ畑(左端)です。
ではまず、土壌から見ていきましょう。土壌は主に粘土とテラロッサです。テラロッサは酸化鉄を豊富に含み、これがワインにミネラル感や力強さをもたらします。粘土とテラロッサを含む土壌は水はけが適度に良いので、凝縮感のあるブドウができやすいです。
次に気候と地理を見ていきましょう。地中海性の気候で、夏は非常に暑くて乾燥した日が続きます。Suvereto 村は東西に走る二つの山の谷に位置し、西からは地中海の涼しい潮風が吹きます。Bulichella は谷底から約70m上がった南向きの斜面に位置しているため一日中太陽の光を浴びることができ、さらに谷のおかげでヴェンチューリ効果(簡単に言うと水や空気が狭いところを流れる時、そうでない部分に比べて速く流れるという現象)が発生して、平野部分と比べて速く風が吹き抜けます。速く吹き抜ける風がブドウの木や実の過度な温度上昇を抑えてくれるため、暑い夏でもブドウが焼けにくいです。
実はこのほかにも、谷という地形は非常に重要な役割を果たしています。
夜、気温が下がると冷たい空気は山の斜面に沿って下に降りてきますが、この現象によりBulichella では昼夜間に大きな温度差が生じます。一日の中に大きな温度差があるとブドウの実の中に適度に酸が残り、キレのある美しい酸を持ったワインができやすくなるのです。また昼夜間の温度差によって糖分の急激な上昇は防がれ、種皮と果実の熟成のスピードが揃います。バランスの良いワインを造る上で非常に重要な要素です。谷は昼夜間の大きな温度差を生む一方で、谷底では冷気がたまって朝霜が発生するリスクもあります。Bulichella は谷底から少し上がったところにある為、昼夜間に寒暖差はできても冷気がたまることはなく、朝霜の発生リスクも低いです。
谷によって受ける恩恵はこれだけでありません。ヴェンチューリ効果によって風がより速く吹き抜ける話をしましたが、これもBulichella のワインにとって大事な要素です。(もちろん速すぎるのは逆に良くないですが、Suvereto では「適度に」速く吹いています。)風が速いとブドウは自分の身を守るために皮を分厚くして果実を小さくします。Bulichella の赤ワインが良質なタンニンを多く含み、凝縮感が強いのはこれが理由です。さらに風通しが良いとブドウの大敵である湿気がたまりにくく、べと病や灰色カビ病などカビ由来の病気を防ぐことができます。
この様に、谷はBulichella のテロワールを特徴付ける非常に重要な要素なのです。
テロワールの話とは少しずれるかもしれませんが、畑のことに関してワイナリーの人に質問してなるほどと思ったことがありました。
上の写真を見て気が付いた人もいたかもしれませんが、手前から奥にかけて緩やかな坂になっています。そしてその坂の勾配(数学をしていると勾配というワードに敏感になってしまいます。ナブラ∇です。そんなことはどうでもよくて...)に沿って畝が立てられ、ブドウの木が植えられています。見渡す限りどの区画も勾配に沿って植えられているので、何か理由があるのかと尋ねてみたところ、すべての木に均等に水がいきわたるためにこうしているのだそうです。
もし畝が勾配に対して垂直方向に立てられていたとしましょう。(背理法の予感...)水は高いところから低いところへ流れますが、もし畝が勾配に対して垂直に立てられていると畝が水をせき止めてしまいます。すると坂の上の方にばかり水がたまり、下の方には水が行き届かなくなります。大雨の後だと上の方の木は根腐れを起こすかもしれません。
では、勾配に沿って畝を立てるとどうでしょうか?たとえ大雨が降っても水をせき止める畝はないので、水はスムーズに上から下に流れるでしょう。坂の一番低い部分には敢えてブドウの木を植えず、溝を掘ってため池につながるようにしています。こうすることで坂の一番下に水がたまりっぱなしになるのを防ぎ、下の方に植わっている木が根腐れを起こさないようにしています。ブドウの木は上から順番に必要な分だけ水分を吸収し、吸収されなかった水分は下へ下へと降りていきます。最後まで吸収されなかった水分は溝に流れ込み、最終的にため池の中に貯められます。雨が全然降らなくて水が不足した時にはそこから水を引っ張ってくるそうです。
ここからは栽培、発酵、熟成までの流れを見ていきましょう。
まずは栽培についてです。
最初にお話しした通り、Bulichella Winery は完全有機栽培を時代に先駆けていち早く導入しました。Bulicihella 設立当初から引き継がれる「自然を尊重した農業」では、畑の中の生態系バランスを壊さないように自然のままブドウを栽培しています。畑の中だけで数百種類の虫や生き物が住んでおり、中にはブドウにとっていい生き物もよくない生き物もいます。ここで敢えて「害虫」を駆除しないで自然にまかせるのがBulichella のやり方です。Bulichell の人は「僕らは100%の収量を期待しているわけじゃない。毎年50%獲れたら上出来ぐらいのスタンスだよ。」とおっしゃっていました。「害虫」を駆除して貴重な生態系を壊すくらいなら収量が犠牲になってもいい、というまさにBulichella の精神です。
収穫は機械ではなく一房一房手で行っています。この時同時に選別も行っており、ワインに使うブドウはかごの中に入れ、そうでないものは肥料として再び畑の中に戻します。
摘んだブドウは二回目の選別にかけられます。すべて手作業で実と茎に分け、良い実だけを選んでワインにするのです。
その後、ブドウをステンレススチールのタンクに入れてアルコール発酵を行います。
アルコール発酵が終わるとワインの原液を熟成用の樽に移し、赤ワインの場合は皮と種を機械でプレスしてワインを搾り取ります。プレスして出てきたワインはタンニンやアントシアニンを多く含むので、それを樽の中のワインに加えることでよりアロマティックで骨格のあるワインができるのです。
プレスした後の皮や種は肥料になったりグラッパの原料になったりします。
その後、赤ワインにのみMLF (Malolactic Fermentation) を行います。MLF とは乳酸菌の働きによってリンゴ酸を乳酸に変化させるプロセスのことで、これによってワインの酸がまろやかになります。
Bulichella では基本的に赤ワインにのみMLFを行い、白ワインには行いません。テロワールのところでお話した通り、Bulichella ではブドウが熟しやすく、タンニン含有量が多くなる傾向にあります。タンニンを多く含む上に酸まで多いと、非常に飲みにくいワインになってしまいます。そこでMLF を行うことで酸が丸くなり、渋みとのバランスがうまく取れるようになります。一方で、白ワインにMLF を行わないのはBulcihella のテロワールを象徴する活き活きとしたミネラル感や塩気を表現するためです。
これはアルコール発酵が行われている様子です。
手前にある壺はアンフォラ (Amphora) と呼ばれる素焼きの陶器です。
アンフォラに関しては次回紹介するTua Rita というワイナリーで詳しく話を聞けたのでそこでまたお話をしたいと思います。
ここは熟成を行うなう場所です。
基本的にブドウやヴィンテージによって新樽を使うか古樽を使うか分けているそうですが、サンジョヴェーゼ(トスカーナなど主にイタリアで多く栽培されているブドウの種類)はオーク樽ではなくステンレス樽の中で熟成させています。サンジョヴェーゼはタンニンを多く含み、樽の中で熟成させると樽から出てくるタンニンも加わってとても渋くなるためステンレス樽を使っているそうです。ものによっては先ほど登場したアンフォラの中で熟成させることもあるそうです。
熟成期間まではメモできていませんでした(泣)
ワイナリーを見学した後はテイスティングの時間です。
右から順番に紹介していきます。以下、(ワインの名前) / (ブドウの品種) の順番です。
右から一番目:Tuscanio / Vermentino
飲んだ瞬間に地中海の風と照りつける太陽の光をいっぱい浴びたブドウ畑の情景が思い浮かぶ、とっても夏らしいワインです。瑞々しいミネラル感と、地中海を彷彿とさせる塩気が印象的でした。
右から二番目:Rubino / Sangiovese, Merlot, Cabernet
サンジョヴェーゼを主体としてブレンドした赤です。赤系果実の香りと滑らかなタンニンが特徴で、そこまで重くもないのでどんな食事とペアリングしても合うと思います。
右から三番目:Montecristo / Cabernet, Merlot, Petit Verdot
Rubino に比べてタンニンの量は多いものの、それを全く感じさせないほど滑らかでした。余韻もRubino に比べて長かったです。Bulichella のテロワールを思わせる力強さもありながら繊細さも持ち合わせている、美しい一本です。重めの肉料理と合わせてもいいと思います。
右から四番目:Maria Shizuko / Merlot
18か月間新樽で熟成したメルロー100%のワインです。凝縮感があり、黒系果実と新樽由来のトースト香、とても柔らかいタンニンが印象的です。余韻も長く美しく続きます。ペアリングするなら牛肉など重めの肉料理が合うと思います。
HIDE / Syrah
テイスティングでは出てきてませんが、三泊するので自分の部屋で飲む用に買いました。シラー100%なのでタンニンはしっかりあるのですが、とても滑らかです。クローブやコショウのようなスパイス香りもあり、そのまま飲んでも美味しいですが豪快に牛肉のステーキといくのもまた最高だと思います。
最後に、大好きなBulichella の自然と一緒にHide を飲んでいた写真で締めようと思います。
次回も引き続きSuvereto 編でお送りいたします~
では、さようなら!










