大学教員・山瀬正寛の発達障害雑記帳 -3ページ目

大学教員・山瀬正寛の発達障害雑記帳

大学教員として発達障害の学生を支援・指導する立場から、発達障害にまつわる諸問題について考えていきます。

くたばれ、「カサンドラ症候群」! という挑発的なタイトルでブログ記事を書いた記憶が薄れないころあいに、NHKEテレ「ハートネットTV」のウェブ連動企画「チエノバ」で、こともあろうに『発達障害の夫を持つ妻』がテーマとして取り上げられました。
「くたばれ…」で書いたとおり、山瀬は、夫婦同居ストレス障害の要因として「配偶者の発達障害」という特徴を切り出すこと自体に懐疑的で、チエノバでテーマとして取り上げられたことには失望しています。

その後、チエノバのウェブサイトに

【専門家インタビュー】宮尾益知さん「大切なことは、お互いが相手の立場になって考えること」

というインタビュー記事が掲載されました。
この記事の読後感を、山瀬が Twitter で呟いたので、まとめます。(「くたばれ…」の記事内容とだいぶ重なりますが…)

連ツイ中で言及してる「野波ツナ漫画」についても、思うところはありますが、それについての批評はまたこんど。

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↓RT 発達障害の専門家で野波ツナ漫画の監修者でもある宮尾益知氏のコメント、読んだけど、興味深いことに、読んでかえって「カサンドラ症候群」は発達障害の問題からは切り離して考えるべき別の問題だという思いを強くした。だってアドバイス内容は発達障害の特性自体にほとんど無関係だもん。
posted at 07:52:47

念のため、山瀬はカサンドラ症候群を軽視しているのではなくて、「配偶者の発達障害」にフォーカスして議論するのは間違いだと主張しているのです。
posted at 07:55:06

「配偶者の発達障害」というのは、単なる事実でしかなくて、スケープゴートにしてはいけない。
posted at 07:57:03

共感性の欠如=発達障害、という連想は大いに疑問。宮尾氏のいうところの「夫の役割」(妻へのねぎらいとか仕事と家庭の切り分けとか)については、発達障害の有無による得手不得手の差はないといっていいと思う。
posted at 08:05:17

宮尾氏インタビュー記事 www.nhk.or.jp/hearttv-blog/1… への批判続き。氏の論旨は、発達障害・アスペルガーなどのキーワードを一切隠して、たとえば「日本人男性の3人に1人」とかに置き換えても成り立つ。それを「発達障害の専門家」の肩書きで語ること自体が偏見助長ではないか?
posted at 09:22:22

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今年の私は、他者からの感情的攻撃にひるまない、恐怖にも義務感にも罪悪感にもコントロールされない、強い自分でありたい。それが私の決意です。

(↑直前のアメンバー限定記事の抜粋)

今年最後のブログ投稿を、あえて挑発的なタイトル、挑発的な内容で締めくくります。
山瀬の当初の関心事だった「発達障害を持つ学生の支援」を出発点に、関連する情報を芋づるでたどって見つけたキーワードの一つに、「カサンドラ症候群」があります。どうやら「定型発達者とASD者の結婚生活の中で定型発達者側がストレスを受けて起こす適応障害の諸症状」を意味するようです。

当初から山瀬はこの言葉に強烈な違和感を覚えました。
それで、いろいろ考えたり、身近な人々の体験談を聞いたりして、山瀬が辿り着いた仮説。
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いわゆる「カサンドラ症候群」の主因は、ASD者である配偶者の言動でなく、本人のストレス耐性の弱さにある。配偶者がASD者であることに原因を求めるのは、ASDをスケープゴートにしているに過ぎない。
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そして、山瀬の主張。
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「カサンドラ症候群」と呼ぶな! それは夫婦同居のストレスによる適応障害の症例に過ぎない。あえて「配偶者がASD者」を特徴として切り出すのは不当な偏見。
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そもそも「配偶者がASD者である定型発達者は適応障害を起こす」という主張には検証可能な根拠があるか? たぶんありません。
「私の配偶者はASD者だ、私は適応障害になった、だから配偶者がASD者であるせいで私は適応障害になったのだ」という主張は、いわゆる「三た論法」で、唾棄すべきものです(※「三た論法」とは(薬や健康食品の類を)「食べた、治った、効いた」という短絡的な論法で、現代の医学や疫学では根拠として採用され得ない)。
「配偶者がASD者であること」を特別視する意味があることを客観的に検証するには、少なくとも、無作為にサンプルした夫婦から「一方に適応障害がある/否」「一方がASD者/否」で分けられる「2×2表」で統計的な有意差を見いだす疫学調査をしなければなりません。そのような調査結果を山瀬は知りません。
山瀬は、仮にそのような調査を行ったとしても、「適応障害と配偶者のASDとは無相関」という仮説を棄却できるだけの有意差は出ないと予想します。
要するに、『ASD者と結婚して適応障害になる人は、たとえ結婚相手が非ASD者であっても適応障害になるに違いない』、というのが山瀬の仮説です。

山瀬の立場としては、上述の主張を覆す説得力のある根拠が示されない限り、「カサンドラ症候群」という言葉を山瀬自身は決して使わず「夫婦同居ストレス障害」と呼ぶ、そして、「カサンドラ症候群」というキーワードをことさらに強調する議論からは距離を置くことにします。

念のため付け加えると、山瀬の主張には次の意味も含んでいます。
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「カサンドラ症候群」というキーワードに踊らされることは、当事者にとっても「真の原因を見失わせる」という意味で困難の解決を遠ざける。だから、当事者のためにも「カサンドラ症候群」という呼び方は廃れるべきだ。
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年内の教育・研究関係のオフィシャルな仕事が今日で終了しました。新年は5日月曜日から教育の仕事が始まります。

昨年後半から今年前半は、個人的にいろいろなトラブルがあって、なかなかブログ記事を投稿できませんでしたが、発達障害と教育・コミュニケーションの問題や、マスメディアでの発達障害や精神障害の取り上げられ方には、引き続き興味を持って情報収集しています。来年はもう少し積極的に情報発信していきたいと思っています。