お茶を入れる水は、
5年前に
梅の花につもった雪を集めて青磁の花がめに入れ、
地中に埋め寝かせたもの。
焼き物には
真っ赤な紗に
花や草書体の詩詞を透かし縫いした
房のある刺繍飾りがはめ込んである。
世に知れ渡っているにも関わらず、
その実物を手に入れた者は極めて稀である。
どうです。この描写。
贅沢の極み。
この手の説明書きがいたるところに出てきます。
「紅楼夢」は、18世紀中頃に書かれた小説です。
紀元前何百年も前の人の記録が物足りない、
18世紀の小説の方がずっといい。
とはアンフェアではありますね。
文章も世につれ、
流行があり、時代とともに変わっていくものですから。
そして、お勧めしようにも、
入手しにくい。
そして長い。
そして現代小説とは形式が違うため、
とっつきにくい。
私は学生の頃、訳書を図書館で借りて読みました。
(つまり持っていない)。
女性向の内容です。
華やかなお話です。
たびたび映像化されているようです。
中国版「源氏物語」がわかりやすいでしょう。
精緻な小説です。
細部まで神経が行き届き、
作者曹雪芹は推敲に推敲を重ね、神経をすりへらし、
物語は未完のまま、世を去り、
別の方が完成させたのだとか。
主人公は
「女の子は水、男は泥でできている。」
とおっしゃるひ弱な貴族のおぼっちゃま、賈宝玉(かほうぎょく)。
美少女がさざめくお屋敷の中で、
(使用人を入れると何百人にもなるという
大所帯、大貴族、大豪邸です)
詩を詠んだり音楽を聞いたり絵を描いたり。
(みな14~15才、大年増に描かれていてもハタチ前だったりします)
女の子を見るのが好き。一緒にいるのが好き。
賈(か)一族の十二人の美少女、
「金陵十二釵(きんりょうじゅうにさ)」中、
不動のヒロイン。が、
林黛玉(りんたいぎょく)です。
孤児であり、母の実家の賈家に寄食せざるを得ない、
不安定な身の上。
翳りをしょっている。
腺病質で、痩せていて貧弱、病気がちで、しょっちゅう眉を顰めている。
おそらく、短命。
神経質。虫の居所が悪いと
周りの言葉や態度にいちいち突っかかり、
トータルの人物評価はいまひとつ…。
でもこういう方はえてして
神経が研ぎ澄まされ、才能豊か。
まさにまさに、
中森明菜さん、沢尻エリカさんタイプなのです。
周りじゅうが、振り回される。
トラブル続きで、仕事にならないから、
第一線から遠ざかった。
それでもオンリーワンの個性を求めて、
復帰のラブコールはやまない。
干されて当然なのに周りが求め、よみがえってくる。
普通、貴族の女性というと
一口に言えばお利口さん。
波風立てず努力を惜しまず、周りに敬愛され、一生を終える。
なんてお話、読む気になります?
(セレブスナップなら、まあいいけど)
で、道ならぬ恋とか、流転する運命とか、夭折とか
バリエーションつけて、流布するのですね。
林黛玉。
本来は、普段の姿は、
見目麗しく天真爛漫なお姫様。
ナイーブで、芸術的センスがとてもとても高い。
そして感情の振り幅が時に大きすぎ、
特に大好きな賈宝玉の前では
素直になれなかったりして、
激しい言葉や態度になってしまう。
悪気はないんだけど、
尖ったところがあって、
女の子の間では時に浮き、
協調性がないことになってしまう。
これはまず体が弱いため、情緒が安定しない。
(信じられないほど痩せているのだそうです)
そして、それにも増して、
自分で自分の感情を律することができない。
取り乱す感情が強すぎるのか。
自分を抑える精神が弱すぎるのか。
自分で自分を追いつめていく。
あやうさ、悲しさ。純粋さ。
一方、彼女の繊細さは、
この上もない賈宝玉の理解者としての面も持つのです。
ミドルティーンの二人の
初々しくも瑞々しい、
気持ちの通い合う名シーン、
いくつもあるのです☆彡
賈宝玉は林黛玉と結婚できる、と聞き
婚礼の席に臨みます。
しかし花嫁は別人だった。
宝玉は「イヤだ!黛玉じゃなきゃ!」と叫ぶ。
まさにその時、落胆のあまり、
かっと血を吐き、
林黛玉は死んでいくのです。

