「夢の中で、嫁女を犯した。」
「無理かどうか、試したい。」
翌朝、三緒は懐剣で喉を突いて自害した。
驚愕して部屋に飛び込んできた篤之助からそれを聞いたが、
範兵衛は眉も動かさなかった。
前半、2行で空気が止まります。
そして次のセンテンスで一気呵成に動き出す。
これを言葉の芸と言わずしてどうしましょう♪
藤沢周平作品は、先生の存命中には、
あまり映像化されていなかったような気がする。
そしてある時期から次々と
目にするようになった。
「武士の一分」なんて、確か短編だったはずです。
あれをキムタクで映画にしちゃうの?と
びっくりしたものです。
時は江戸時代。はじまったばかり。
粗っぽい浪人さんが、腕に覚えあり、と仕官を申し出る。
御前試合で、前途有望、武芸に秀でた者が
次々に再起不能なまでに叩きのめされる。
あまりに残虐なので雇いたくない。
で、もう一試合を命じた。
試合の相手は、20年前に
同じく腕に覚えありと申し出、召し抱えられた、
今は隠居している男だった…。
紙芝居のように、さっ、さっ、と場面が切り替わります。
緊迫した御前試合。
のどかな舅と嫁の時間。
試合を受けねばお家お取りつぶし、の家族会議。
たとえ勝っても、召し抱えられるあてはない、粗暴な剣客。
そして運命の試合の時がやってくる…。
構成力が確かなのです。
徐々に物語が緊迫していく。
読ませます。(←大事なんですよ~)
剣術の試合の描写なども面白いのです。
「八双の位置から木剣を振り下ろしながら」とか、
「青眼の構えのままするすると」とか。
「道場の空気を裂いて気合の声がひびき、
残心の構えからゆっくり体を起こし、
木剣を引き上げる」とか。
バレエでフィッテとか、ジュテとか、
あるじゃないですか。
野球の実況中継で
「ピッチャー振りかぶって一球」と実況中継が入りますね。
剣術にも同じような!?
用語が。セオリーが。
乏しい知識で想像したりして。
男の方はこのあたりとか、
この作品にはまだその気配はないものの、
政治の世界の権謀術数の緻密な描写などに
心惹かれるのでしょうね。
そして、藤沢先生の作品のヒロインは
だれもかれも皆魅力的です。
宮沢りえさんや、壇れいさん、
北川景子みたいな美人ではないです。きっと。
田舎の小藩のお話が多いですから。
人を斬って脱藩した婚約者を待ちつづける
「用心棒日月抄」。
同じく「用心棒日月抄」の
闇から現れる影の存在の女忍び。
叶わぬ思いを抱いたまま、藩主に召されていく
「蝉しぐれ」。
舅を静かに見守り続ける
「三屋清左衛門残日録」。
そしてこの「ただ一撃」。
みんな、ひたむきで、健気で。
この作品では、ヒロインの優しさと賢さと温かさが、
彼女を死にいたらしめる。
痛々しくも、鮮烈です。
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