ショッピングセンターにあるお店で働いている私はよく道を聞かれる事がある。それは駅の方向だったり、バス停への行き方だったり、お店の場所だったりする。明るくやさしい店の雰囲気に加え、目に入りやすい場所にお店があるからか、平日の接客業務の二割ほどは道案内だったりする。
昨日の正午、店長とアルバイトの白くまちゃんと一緒に人通りを眺めながら一日の売上を予想していた時、あるマダムがお店に向かって歩いてきた。
「オーシャンモールへはどういけばいいの?」
「あちらの青いネオン看板のお店の前で右に曲がればすぐですよ。」
マダムの視点に合わせるように前のめりにならながら手のひらを青いネオン看板に向けた。
「あの看板の前ね。」
と看板に指を差しながらマダムは店を後にした。店の中からではマダムの姿が確認出来なくな寸前に店長が急に厳粛な口調でそれを言う。
「ありがとうは?」
「ありがとう。」
それはまるで子供に感謝を伝えるよう促す母親のような貫禄だった。年下だからと恐れず言い出した店長の勇敢さとマダムの素直さに驚きを隠せず、白くまちゃんと二人で目を丸くして店長を見つめた。純度百の尊敬の眼差しであった。
「店長ありがとう!」
と言いながらまるで偶然街で会った仲良し少女二人組のようにハッピーというハッピーを体で表現したバグを店長にした。
私達も人間である、でも制服に着替えた瞬間そうである事を忘れられる事がある。AIやNPC、コンピューターシステムとして認識されるため、そこにも尊重や優しさを向ける事を忘れられたり、動作指示に沿わなければ叩いて直そうとされたりする。店長はそのような事が私達の上で起こる事を決して許さなかった、それが何よりの救いだった。おかげで私も大切に扱われるのに値する「一人」だって事を忘れずにいられるから。