「愛してる。」


昨日帰りの駅で客引きのティッシュを配っていた人の顔が消えた。


「愛してる。」


会社の上司の顔が思い出せない。


「愛してる。」


一番の親友は、いたと思っていたがいないらしい。


「愛してる。」


もう貴女しか見えない。


「愛してる。」


それは貴女を受け入れる言葉。


「愛してる。」


それは・・・。



貴女の隣に並んで立っている、その人の顔が見えない。


「愛してる。」


おい、お前が勝手にその言葉を使うなよ。


その言葉を使って良いのはおれだけだよ。


だから、お前は、消えろ。


近づくとその距離は見る間に縮まり、驚愕と少しの抵抗をおれの身体に伝える。



奴に突き立てたはずのナイフは、何故だかおれにも刺さり、意識を奪う。


それでも、おれは貴女を守れたのだ。それだけで満足だ。


願うならば最後に、貴女に、この言葉を。



「愛してる。」



奴の亡骸はもうそこにはない。


代わりにおれがそこに倒れている。



「愛してる。」



それは貴女以外を拒絶する言葉。




貴女は泣くのだろうか。