僕のすぐ横を電車が通り過ぎた。

進路を譲られた車がクラクションを鳴らした。

夕焼けに頬を照らされながらはしゃぐ子供が何か叫んだ。

僕の指がパチンと音を立てた。

この吐息だって。

この衣擦れだって。


此処には音が溢れている。

どんな音だって聞こえている。

どんな言葉だって伝えられる。

なのに。

たった一つ、君の音だけが聞こえない。

君の音が聞こえないから、君に言葉を伝えられない。

君にも僕の音は聞こえていないだろうから。

君は何処にいるの?

僕の音はもうずっと届かないの?

僕の言葉はもうずっと伝わらないの?



「君は…何処に…!!!」



叫んでみても、夕方の喧騒に紛れて消える。

ほら、僕の声は君に届かない。





「・・・」





微かに君の呼ぶ声が聞こえた気がした。

君の音が、聞こえた気がした。