ただ貪るだけの惰眠から覚醒すると、そこにあったのは青だった。

それは突き抜ける様な空の色。

「え・・・?ここ、どこだ・・・?」

空が広がる開けた空間、ということだけはわかるが、生憎とこれに該当する景色の記憶を僕は持っていない。

何か目印になる様なものでもないかと目線と動かすと、遠くに山が見えた。

これと言って特徴的なところもない、山頂に少しだけ雪の積もった、ただの山だ。

と、今更の様に目の前にある草の葉に気付いて、やたらと背が高い雑草もあったものだとぼんやり考えて、自分が覚醒した時のへたり込んでいた状態から未だに少しも動いていない事を思い出た。

ゆっくりと立ち上がると案の定、単子葉植物特有の尖った葉は自分の膝辺りで揺れる程度の高さだ。

改めて辺りを見渡す。

そこは、青と緑と白い山が支配する世界だ。相変わらず。

僕の見間違いではないらしい。

それともこれは、まだ夢の中か?

僕の思考もまだまだメルヘンチックな部分が残っていたものだ。

「ったく。ホントにどうなってんだ?」

意味がわからない。

当然だ。今日部活を終え疲れた体を引きずりやっとのことで帰宅した後、夕飯だけ適当に済ますと自分の部屋のベッドですぐに眠り込んでしまった・・・ところまでしか記憶はない。

しかしまさかその後すぐに怪しい集団に拉致されてしまったわけもなかろうに、どうして僕は今こんなところにいる?

思考を変えよう。

そうだ、何故ここにいるか、ではなく、ここからどうやっていっそ懐かしくすら思える我が家に帰り着くか、だ。

とは思ってみたものの、やはり辺りには何も無い。

・・・いや待て、何かある。    ・・・いや正確には何かいる。存在することを示す、音が聞こえる。

「これは、蹄・・・か?」

周囲に目をやると、さっき見た山の方向から、確かに一騎・・・と言うべきか? 馬に乗った人らしきものがそれ相応の速度で近づいて来ているのが見える。

見る間に僕の目の前にまで到達した馬はそこで足を止め悠然と草を食べ始める。

上に乗っていた人は、無駄の無い動きで鞍から降り、僕の目の前でそれなりに愛嬌のある笑顔を作っていた。

短い銀髪の容姿は青年と言うよりは童顔に近く、高校生の僕と同い年くらいかと思ったが、全体の落ち着いた雰囲気から実際はもう少し年上だろうことが推して量る事ができる。

しかもその顔に甲冑だったものだから、どうにも全体的に「着られている」感は拭えない。

「やぁ、こんにちは。 おれはこの周辺を治める国家、アルター皇国の衛兵、って言ってもまだまだ新米だけど・・・、マイルスという者だ。いきなりこんな所に来てしまって戸惑っているのはわかるけど、今すぐ付いて来て欲しい。君は今、必要とされてる」


「・・・は?」



いちわおわり。