北朝鮮から韓国へ亡命した、いわゆる「脱北者」であり、北朝鮮の元工作員の安明進(アンミョンジン)氏は言います。

「横田めぐみさんが北朝鮮に拉致された頃、今も日本にいる大勢の北朝鮮の工作員たちは、暇と隙さえあれば、次々に日本人を拉致していた」

 そして安明進(アンミョンジン)氏によって、横田めぐみさんの拉致の状況まで次第に明らかになっていきました。

 横田めぐみさんは拉致された後、船の中にある小部屋に閉じ込められたそうです。

 そして彼女は、鉄製の戸や壁を何度も叩き、爪で引っかいて、泣きながら叫び続けたそうです。

 そのために彼女の爪ははがれ、床には血が滴り落ち、そして船酔いによる嘔吐。

 これまでバトミントン部とコーラス部に所属して、普通に平和な青春時代を過ごしてきた一人の少女が、突然、突き落とされた非現実的な地獄の光景。

 そのあまりの落差に、そのいたいけない少女は、日本から北朝鮮に連れ去られるこの一件によって、悲しいことに精神を少し壊してしまったといいます。

 誰だってこんな悲劇にめぐり合わせれば、ノイローゼになってしまうかもしれません。

 この悲惨な光景と出来事を、横田めぐみさんの両親は知っています。

 しかしそれでも母の早紀江さんは、「何とか一人でも多くの日本国民に、北朝鮮の拉致事件をもっと知ってもらいたい。そしてもっと多くの人に関心を持ってもらって、解決に協力して貰いたい。そして何としてでも我が娘と再会したい」という母ならば誰でも持つ当たり前の思いから、彼女は気丈にも講演を行って、舞台の上からこう訴えかけるのです。

「私の娘は船で連れ去られた時、40時間も、泣きながら戸を引っかいて、お母さん助けてと叫び続けていたそうです・・・」

 私たち多くの日本国民が、横田めぐみさんとは、直接話したことがなく、この拉致事件を映画やドラマの物語のように捉えてしまうことも、どうやら少なくないようです。

 しかし、そこには真実の人間ドラマがあり、生きた人間が存在するのです。