イラクのホテルで

 

 

1991年に起きた

湾岸戦争

 

イラクと

アメリカ率いる多国籍軍

との戦いは

 

イラクが

隣りの国のクウェートへ

侵攻したことがきっかけで

始まりました

 

クウェートから

イラク軍が

1月14日までに

撤退しなければ

攻撃する

 

という

撤退期限の直前に

 

私は

当時の社会党の

土井委員長の

同行取材で

イラクに

行くことになりました

 

 

どうしても

戦争を回避させなければ

ならない

私は、やっぱり

フセインに会って

言ってくる

 

お正月明け

社会党の旗開きの日に

土井委員長が

突然言いだし

 

それから

1週間もしないうちに

新聞、テレビ、通信社から

各社1名づつ

記者が

土井委員長と一緒に

イラクに

向かったのです

 

 

飛行機には

北朝鮮までしか

乗ったことがない私

 

初めて赤いパスポートを

外務省から

急いで

発給してもらい

 

フランス経由

ヨルダン経由で

イラクへ

 

 

いろいろなことが

ありました…

 

 

戦争の足音が

近づいているけれど

戦争体験もなく

そんなことなど

起きない

と、漠然と

信じていた私でした

 

ただ、今

 

1番に当時の思い出として

ここで書きたいことは

私が

帰国する日のこと

 

ホテルのフロントにいた

20代そこそこに見える

若い女性に

私が

問いかけた時の話です

 

 

撤退期限が

迫っているけれど

怖くはないか

 

と、聞きました

 

すると、彼女は

フロントに飾ってある

カレンダーを横目で見ながら 

はにかんだ笑顔を

見せると

 

何も怖くない

何か起きるわけは、ない

 

と答えたのです

 

私は、市民の気持ちに

驚きました

 

この市民感覚に

驚いたので

もう、そんな不安な話は

しないで

 

毎日のこと

仕事のことなど

たわいもない話を

彼女としばらく

話しました

大事な想い出です

 

 

彼女は

普通の若い女性でした

夢を持っている

若い女性でした

 

 

あのあと…

 

私が泊まった

このホテルも

 

多国籍軍によって

空爆されました

 

その後、各地から

送られてくる映像には

 

私がリポートを撮影した

フサイン大統領の

大きな写真は

粉々になっていました

  

あのホテルの

若い女性が

どうなったのか…

 

今でも

ふとあの日の会話を

思い出すたびに

 

胸の奥が

きゅっと辛く、痛み

やるせない気持ちが

黒く渦巻きます

 

 

 

写真は、1月の

13日18:48とあります

撤退期限前日です