読み終えました。

 

涙が出ちゃうよ。

 

主人公が負けるとわかっているお話を読んでいくのはけっこうつらい。

 

いよいよダメが近くなってくると読み進められなくなる。

 

そういう時はラストの章から読んで元に戻ったりする。

 

 

お話は箱館戦争の終結まででした。

 

その後のことはほんの3ページほどで老いて今際の際の夢やら言葉やら。

そして後書きのように、その後の武揚について1ページほど。

 

降伏後、29年生きたのかな。

 

佐々木さんの榎本武揚は私が今まで少ない知識でイメージしていた武揚を完全に塗り替えることになった。

自分の意地や権力志向や栄誉を追及するタイプだから無謀にも蝦夷共和国なんていうものを夢想した、そして多くの犠牲者を出したのにもかかわらず、自分は明治政府に転向したみたいな・・・そんな風に思っていたけれど、

 

全く違ったよ。

 

理論的、

学術的、技術的、専門家タイプ

紳士的、

オランダで学んだ平和で自由、平等の社会、民主主義を理解していた人、

だからこそ、薩長のやっていることを憎んだし、決して賊呼ばわりされるようなことはしていないと胸を張って言い、

京都側の処置により、職を失い、住む場所を失って露頭に迷う多くの人のことも思って、蝦夷地を開拓し、農業や輸出入を盛んにし、理想のコミュニティーを作ろうとした。

 

そのあたりのことで佐々木さんの考えを知りたいなと思ったら、

比較的簡単に御本人のコメントにいきついた。

 

御本人が作っている「佐々木譲資料館」というサイトがあってそこに

「武揚伝ノート」が1から3までがあり、詳しく書かれている。

 

読んで納得。

よく分かる。

この考えだからこういう小説になったんだな。

武揚のあの言葉になった、あの行動になった・・・・と納得できる。

 

ちょっと借用すると

 

疑問の1、明治新政府に、政権としての正統性はあるか?

これについては、孝明天皇の毒殺によって王政復古が実現されていったことを考えれば、
はっきりと、ノー、である。
先帝殺しによって生まれた政権が、正統性を持つわけがない。
武揚がそんな政権から「賊」と決めつけられる理由はないのだ。
武揚は、不法・不当に政権を簒奪した者たちに対する、断固たる政治的反対派である。

 

確かに。

 

お話の中で共和国の総裁として武揚が諸外国に対し、

「わたし達は一度たりとも、外国人に対し刃を向けたことはない」というようなことを言う。

 

そうなんだよね。さんざん、攘夷だ攘夷だといって異人切りをしてきたのは薩長なんだよ。

 

そういう輩の作った新政府を今一信用していないという外国人の言葉も出てくる。

 

このあたりは佐々木さんの思いが強くでているところだね。

 

たくさんの心に残る武揚の言葉がある。

 

それは、きっとこう言っただろうという佐々木譲さんの創作なんだろう。

 

でも、それは

武揚が京都側や諸外国に対して作ったたくさんの嘆願書その他の文章から鑑みて、

こういう気持ちでこういう言葉を発する人だろうという佐々木さんの判断だから

説得力がある。

 

感動する、涙でる。

 

まあ、事実としては武揚自慢の海軍、軍艦があまりにも活躍できず、お粗末な顛末で戦に負けていったというのは残念なところだ。

 

流れ?風?そういうものが武揚の方に吹かなかったということなのかな。

 

とにもかくにも、面白かったし、一人の歴史的人物のことを知り得てよかったと思う。

 

佐々木譲さん、ありがとう。

 

今、気が付いたんだけれど、上と中は「決定版 武揚伝」を読んだのに、これは決定版ではなかった。だから、中の最後と下の始めがダブっていたんだな。

 

 

 

 

 

 

東京農業大学を作ったのは武揚さんで~す!