今日は、実際に無痛分娩を体験した方の体験談をご紹介します。

日本で外科医として勤務の後、イギリスで腫瘍科医師として働いている日本人ドクター、M先生の無痛分娩体験談です。

M先生は現在は産休中、イギリス人のご主人と昨年末に出産された息子さんとの3人家族です。







「おかげさまで無事に生まれました」



10cm大の子宮筋腫が子宮頚部近くにあって、当初予定帝王切開の予定が組まれていたが、最後の超音波で赤ちゃんの頭が筋腫の下をくぐっているということで(筋腫が邪魔で赤ちゃんが出てこれないことはないだろうということ)急遽自然分娩にトライすることに。
予定日前日12月23日の検診では、「まだ産まれなさそう」とのことで、クリスマスの4連休明けに誘発分娩をする予約をとって帰宅した。
しかし翌24日、晴れて雪景色がきれいだったので夫とのん気に散歩なんかしていたのだが、午後から何となく下腹部の鈍痛が始まる。
いわゆる「前駆陣痛」というやつでそのうち収まるだろうと思っていた。
そしたら、夜の20時にいきなり破水。
病院に電話して行ったところ、「痛み(陣痛)もまだ(!!!)5分間隔だし、babyの心音も問題ないので陣痛が3分間隔(冗談でしょう?)になったらまた来てね」と言われて帰宅。

家に帰って、とりあえず寝よう・・・とベットに入ったが、そうこうするうち痛みが尋常じゃなくなってくる。
これが世に言う「陣痛」の痛みなのか!!と半ば感心しながらも身悶えつつ、深夜0時にはもう我慢の限界の3分間隔。這うようにして病院に戻った。
担当になってくれたMidwife(助産婦さん)の診察を受けると、「まだ子宮口も3cmしか開いてないから、まだまだね~」とのこと。
痛みに関しては笑気ガスを使っていたが、もう本当に・・・・・きつかった・・・・
言葉ではイイアラワセマセン。
もちろんこの間胎児心拍と陣痛がモニターされていたが、明け方4時ごろ陣痛に伴っておこる胎児心拍低下の戻りがちょっと心配とのことで、産科のドクターが呼ばれる。
心拍は大丈夫とのことだが、子宮口も5cmと進行してきて、痛みも強いのでここでエピ(硬膜外麻酔)をしようということになり、明け方4時という時間にも関わらず、当直の麻酔科ドクターが来てサクッと硬膜外チューブを入れてくれた。
この後は、痛みは「鈍痛・圧迫感」くらいに軽減して本当に助かった。そうこうするうち、5時半頃にMidwifeが「子宮口がようやく全開大になってきたのであとちょっとしたら最後のプッシュをするわよ」ということになった。

最後のプッシュ(いきみ)をMidwifeの掛け声にしたがって必死で行うも、なかなかbabyは出て来ず・・・。
硬膜外麻酔も切れてきて、再び死にそうな痛みになりながら2時間以上トライするも出て来れず・・・。
朝8時過ぎ、この段階でちょうど当直チームが入れ替わって産科ドクターが診察にやってきた。

「babyの耳は触るけど、頭が回旋できずにいるようなのでこのままでは無理でしょう。緊急で手術室に搬送して、まずは用手的に回旋できるかやってみて鉗子分娩、あるいは緊急帝王切開になります」

あとは、もうまな板の鯉。まるでドラマのようにあれよあれよという間に10分後には手術室に運ばれてたくさんのスタッフに囲まれていた。帝王切開に備えて硬膜外麻酔もバリバリに効かせられて処置が始まる。

産科ドクターの「どうにか頭が回ったのであとはエンジンとしてあなたのプッシュ(いきみ)が必要」とのことで、麻酔で感覚なんてまるでないのだけれども、モニター上とお腹の上に添えられたMidwifeの手の感覚に従って、陣痛のタイミングでとにかくイキム&イキム&イキム、次の波でもまたイキム&イキム&イキム・・・。

「頭が出てきた。もうちょっとだ!!」

ウーーーーーーーーーーン。

「オギャア」

無事に産まれた、と聞いた。

臍の緒は手術にも立ち会っていた夫が切った。
小児科ドクターのチェックも問題なし。



手術台の上に乗ったまま、信じられない気持ちでbabyと対面。
そのときの気持ちは・・・・今もって思い出せません。
いつも変な冗談ばかり言っている夫の目もちょっとウルウルしているように見えた。

難しいお産で(+高齢初妊婦ということもあるでしょう)鉗子分娩でもあり、会陰裂傷3度とのことでその後縫合処置を受けた(麻酔のおかげでまったく痛みは感じなかった)。
失禁の可能性があるので産後はPelvic muscle exerciseをするようにとのことだった。
しかし何よりも何よりも何よりも、babyが無事に五体満足に産まれて本当によかった。



$TOKYO産科麻酔チーム☆ダイアリー




M先生、元気なお子さんの誕生、本当におめでとうございました。



高齢初産、子宮筋腫合併妊娠などのハイリスク妊娠は日本でも増えています。


日本とイギリスの違いは、、、

M先生のように最初から無痛分娩を選択していなくても、痛みが強くなってから硬膜外麻酔を当直の麻酔科医により施行されること(つまり24時間いつでも可能ということ)、
そして帝王切開をすぐに行えるようにスタンバイする体制を「ダブルセットアップ」と言いますがこれらが当たり前に行える施設も、日本ではまだまだごく限られています。

日本ではまず病院選びの時点で、無痛分娩を受けられる施設を探して行ったとしても、そこが高齢初産婦や合併症妊娠をフォローできない小さな個人のクリニックだと、大学病院などの大きな病院を紹介されますが、紹介先の大きな病院では無痛分娩をやっていない、、ということも多いです。

本来であれば、高齢初産や合併症妊娠によっては無痛分娩のよい適応だったりするのですが、日本では自然分娩が難しいと考えられると最初から帝王切開が選択されるケースが圧倒的に多いです。

話が前後しますが、先ほどの「ダブルセットアップ」体制についても、
日本の多くの大学病院、総合病院では産科病棟と手術室は離れていて、このようにいつでもすぐにその場で帝王切開ができる本当の意味での「ダブルセットアップ」体制がとれるところはあまりありません。


M先生の話では、この体験談の手術室はもちろん産科フロアーの手術室、そして鉗子分娩をしている産科ドクターの横で、いつでも帝王切開ができるように、別の産科ドクターが手洗い(すぐに手術ができる状態)をしてスタンバイしていた、とのこと。
日本では、分娩室から手術室に連絡し、手術室の準備ができてから移動し。。。とどうしてもタイムロスが生じます。
そして手術の麻酔を担当する麻酔科医も分娩の経過を当然みておらず、緊急帝王切開が決まってから短時間での情報収集、となり、こうした情報不足や情報収集の時間が限られるということは、帝王切開に関わらず、緊急手術が予定手術よりもリスクが高くなる要因でもあるのですが、
「産科麻酔」という専門分野が存在し、分娩フロアでもすぐに帝王切開に切り替えられる「ダブルセットアップ」のシステムが整っていれば、かなりリスクが軽減するのは明らかです。



国や地域によって様々な医療事情があり、一概にどちらがいい、とは言えないと思いますが、こういったお話を聞くと、産科麻酔が日本でも充実して、たくさんの選択肢の中からベストの選択をいつでもどこでもできるようになるといいなあと心から思います。



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TOKYO産科麻酔チーム